シェーラは電気うさぎの夢を見るかもです そのはち
シアトル騎士団とは、表向きは人材派遣のような組織である。その裏では、暴力を背景にした様々な悪事を働いているらしいが。
そして、ボスのラウル将軍は、おかしなデザインの軍服を着た中年男である。怒るとサイゴンフラッシャーアタックという奇怪な技を繰り出す、大変に面倒くさい男であるらしい。もっとも、ザックは直接の面識はないが。
そして今、ザックはそのラウル将軍と会っていた。周囲にはスキンヘッドに眼帯の背の高い男と長髪で仮面を付けた男、そして色の黒い筋肉質の男の計三人が、ドスの利いた表情でこちらを睨んでいる。
「やあ、君が噂のザック・シモンズくんか……よく来てくれた」
ラウル将軍は両手を広げて、ザックを迎える。赤くて平べったい帽子、金ボタンの付いた赤く派手な服、そして黒いブーツとマント……会った瞬間、ヒロコは目を逸らせる。そして顔をしかめたまま下を向いた。肩が小刻みに震えている。
そしてザックは――
「お初にお目にかかる。私はザック……ザック・シモンズだ。堅苦しい挨拶はいい。それより貴様に聞きたいことがある。人造人間を売りさばいていると聞いたのだが……本当か?」
このザックの言葉を聞き、ラウル将軍の表情が変わった。満面の笑みが消え失せる。代わりに、ザックの意図を図るかのような表情が現れた。
「それは……誰に聞いたのかな?」
「誰でもいいであろう……なあ、貴様が何をしようが私には関係ない。私の迷惑にならない限り、好きなだけ悪事を働けばいいであろう。私が知りたいのは、この少女を貴様が知っているのか、ということだけだ。さあ、見るがよい」
そう言うと、ザックは懐から小さな水晶板を取り出す。指で触れると……可愛らしい少女の顔が、水晶板の中に現れた。言うまでもなくシェーラの顔である。なぜこんなことができるのかと言えば……もちろん、魔法だからである。
「おお……そう言えば、見覚えのある顔だな。この人造人間は……売った覚えがあるな。そこそこの金持ちの家だったと思うぞ」
ラウル将軍はあっさりと認めてうなずいた。ザックの表情が変わる。
「やはりそうか……ならば、誰に売ったのか――」
「それは言えないな」
ラウル将軍は、冷たい表情でザックを見つめる。同時に、横にいる男たちの表情も険しくなる。今にも襲いかかって行きそうな雰囲気だ。
しかし、ザックは怯まない。
「そう言わずに、教えてもらえないかねラウル将軍。この私が自ら出向いて来たのだ。少々の掟破りには目を瞑って欲しいのだよ。それとも……」
ザックは言葉を止め、前に進み出る。
「戦争をする気なのかね、この私と?」
真っ先に動いたのは黒人だった。巨体に似合わぬ速いスピードで一気に間合いを詰め、左の拳が飛んでくる――
しかし、ザックは拳をよけない。頭で受け止める。すると、
「イタタタ! 凄え痛え! こいつの頭えれえ硬えよ! 半端ねえ! お前凄えよ! ラウル将軍、こいつマジ凄え!」
左の拳をさすり、驚嘆の声を上げながらピョンピョン飛び跳ねる黒人。ラウル将軍と他の二人も、ザックをまじまじと見つめる。
「かかか、鉄よりも硬いと言われた私の頭……貴様らごときでは、傷ひとつ付けられぬわ」
腕を組み、勝ち誇った声を出すザック。確かに、傷ひとつ付いていない。横にいるヒロコは呆れ返ったような表情を浮かべている。
「あ、あんたは……確かにとんでもない奴だな。噂以上だ」
唖然とするラウル将軍。ザックの圧倒的な強さ……というよりも、ザックの凄まじいまでのデタラメぶりに度肝を抜かれたようである。
「ラウル将軍……私も子供の遣いではないのだ。なあ、この私に免じて、教えてくれないだろうか? さもないと……」
ザックはヒロコを連れ、シアトル騎士団のアジトを出た。次に行く場所は決まったが、行ってどうすればいいのか……難しいところである。初めは犯人を見つけ、そいつから金をふんだくるつもりであったのだが……いつの間にか、妙なことに巻き込まれていた。これからどうすべきなのだろうか……。
「ザックさん、これからどうするんです?」
いきなり、隣にいるヒロコに聞かれた。しかし正直な話、ザック本人にもよくわからない……自分が何をしたいのか。私が探す物は何だろう……誰も知らないし、知るわけがない。
「仕方ない……まずは、アトキンス家に行ってみる。奴らが何のためにシェーラをもらい、そして何のために捨てたのか……それだけは聞き出さねばなるまい」
そう、シアトル騎士団のリーダーを務めるラウル将軍から聞いた話によると、シェーラ――ラウル将軍たちは『人造人間八号』と呼んでいたが――はジョージ・アトキンスに売られていったのだという。ジョージ・アトキンスとアンジェラ・アトキンスの夫婦には子供がいなかった。ジョージは養女として、シェーラを引き取りたい……と、言っていたらしい。もっとも、きちんとしつけられて育てられた人造人間の子供は、悲惨な育ち方をしてひねくれてしまった孤児よりも評判がいいという話だ。
「だけど……そうなると不思議ですよね。シェーラちゃんの記憶は……何なんでしょうかねえ?」
首をかしげるヒロコ。そうなのだ。シェーラの記憶……両親のパッパ・ザードとマンマ・ザードに育てられた。しかし、両親は押し入ってきた賊に殺され、シェーラは命からがら逃げてきたというもの。一体どこで、そんな記憶が刷り込まれたのか……。
もっとも、ザックとヒロコには、そのからくりが何となくわかってはいたのだが……。




