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シェーラは電気うさぎの夢を見るかもです そのなな

 ザックが家に戻ると、ロドリゲス兄弟とミャアとシェーラが、四人で仲睦まじく水晶板に映る映像を観ていた。シェーラは瞳を輝かせながら、水晶板に見入っている。そしてデュークが足元に擦り寄って来て、くるぶしの辺りに鼻をくっつけてきた。デュークなりの「お帰りなさい」という挨拶なのだ。

「おうデューク……出迎えご苦労」

 そう言って、デュークの頭を撫でるザック。デュークはザックの手をペロリと舐めた後、夢中で水晶板を観ているロドリゲス兄弟の足元に行く。ロドリゲス兄弟は今、油で揚げたじゃがいもをむしゃむしゃ食べており、足元にいると文字通りの「おこぼれ」がもらえるのだ。


 ザックがキッチンに行くと、ヒロコがぼんやりとした顔で一人、物思いにふけっていた。こんな表情のヒロコを見るのは初めてだ。ザックは妙な胸騒ぎを覚えた。ヒロコはどうしたのだろうか。もしや、自分がいない間にヴァンパイアにでも噛まれたのだろうか。あるいは……いや待てよ。ヴァンパイアといえば……狼に返信いや変身するヴァンパイアもいたらしい。そう、目の前にいるヒロコから聞いたのだ。ヒロコのいた世界では、そんなものがいたらしい。恐ろし過ぎるな、狼に変身するヴァンパイア……何の意味もないではないか!


「何一人でブツブツ言ってるんですか?」

 ヒロコが訝しげな表情で尋ねる。ザックはハッと我に返った。そう、今は確かめなければならないことがあるのだ。

「すまん、いろいろあってな……ところで、シェーラから話は聞けたのか?」

「ええ……少しだけ……何かミャアが凄くはしゃいでて……お姉さんぶってシェーラのそばであれこれ世話を焼くもんで、ちょっとしか話聞けなくて……」


 その、ちょっとしか聞けなかった話の内容は次の通りである。

 シェーラは十年前に、この街で生まれた。父の名はパッパ・ザード、母の名はマンマ・ザード――魔法刑事のジャン・ギャバン曰く「二人とも街には存在しない人間」らしいが――である。そして半年ほど前、押し入ってきた賊に二人が殺され、シェーラは命からがら逃げ延びた。

 その後は地下に寝泊まりし、ゴミ箱を漁ったり市場から盗んだりしながら、何とか生き延びてきたのだという。


「ああ、そりゃ簡単だ。その近辺を仕切ってる悪党を拷問にかけ、情報を聞き出す。よし、さっそく行って来よう」

 ザックは立ち上がり、扉に向かおうとするが――

「ちょっと待って! 警察に行ったら、両親が存在しない、と言われたんですよね? だったら……悪党連中を拷問にかけても無駄なんじゃないですか?」

「ぷぷぷ……そこが冒険者のプロとアマとの差なんだな。いいか、シェーラの両親が裏社会の人間だと仮定してみれば、警察に登録されていないのも当然だろう。ならば……悪党連中に聞く方が手っ取り早い」

 ただの自称冒険者であるザックは自信満々にそう言い放つと、またしても出て行こうとする。だが、なぜか足元にデュークが寄って来た。そしてザックの足を甘噛みしながら、右の前足でザックをつつく。またしても、意味不明な行動である。だが、その時……ザックの脳天を何かが貫くような感触が襲う。


 そうだ……。

 私は忘れていた……ついさっき、ヒューマンガスから妙な話を聞いたではないか!


(実はね旦那、シアトル騎士団の奴らが人造人間を売りさばいてる、って話を聞いたじゃんよ)


 もしかすると……シェーラは人造人間なのでは? そして偽物の記憶を植えつけられ、人間として生活していた……その平穏な生活が何者かによって壊され、そしてシェーラはホームレス少女に……。


「ザックさん……どうしました?」

 ヒロコの半ば心配、半ば呆れたような声。ザックはふと我に返った。足元を見ると、デュークが何かに取り憑かれたかのように甘噛みを続けている。

「こらデューク! いい加減にしろ!」




 翌日、ザックは噂に聞いたシアトル騎士団のアジトへと出向いた。ロドリゲス兄弟は今日も自宅待機させている。実は連れて行こうとしたのだが、二人とも汗だくになってウエイトトレーニングに励んでいたのである。二人の話によると、あと一時間トレーニングが続き、さらにウエイトトレーニングが終わったあとにクールダウン、さらにストレッチ、最後に水を浴びて体を清める儀式をしなくてはいけないのだという。そして終わったあとには、プロテインとかいう奇怪な粉末を飲むのだとか……さすがに全部終わるまで待っていられないので、一人で乗り込むことに決めたのだ。

 一人で歩いていると、突然後ろから声が――

「ザックさん! 待ってください!」

 振り向くと、ヒロコである。ツナギのような作業服を着たまま走ってくる。ザックは何事が起きたのか気になったが、待っているのは時間の無駄なような気がしたので、そのまま歩いて行く。

 だが――

「ちょっとお……こ、殺す気……」

 ヒロコは息も絶え絶えな様子で走ってきてザックに追い付き、そのままへたりこむ。ぜえぜえと荒い息を吐きながら、ザックを睨みつけた。ザックはなぜか恐怖を感じ、目を逸らして立ち去ろうとする。しかし――

「待たんかあ! なぜ逃げる!」

 叫ぶと同時に、ザックの腕を掴むヒロコ。その目からは、凄まじい怒りが感じられる。ザックは仕方なく立ち止まった。そして疑問を口にする。

「な、何をしにきたのだ……お前は……」

「ザックさんの手伝いをしようと思って追って来たのですが、何か?」

 最後の「何か?」の部分は語気鋭く、ザックは得体の知れない恐怖を感じた。異世界にてヒロコが就いていたニートという職業は何なのだろうか。自宅を守る、そのためだけに、これほどの恐怖を与えるとは……実に恐ろしい職業だ。

 しかし、今はそんなことを言っている場合ではないのだ。まずは、シアトル騎士団から話を聞いてみなくてはならない。

「ヒロコ……少し休んだら行くぞ」






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