シェーラは電気うさぎの夢を見るかもです そのろく
部下が不満そうな顔で立ち去り、部屋にはザックとヒューマンガスの二人が残された。
そして数分後……。
「ほんとゴメン! でもマジ勘弁! 金貨十枚は高過ぎ! 少しまけて! 実際、今手元には二十枚しかねーし! あとでいろいろ支払いとかあるかもしれねーし!」
ヒューマンガスは床にひざまずき、何度も頭を下げている。白い仮面は外していた。仮面の下の素顔は……わりと普通だ。ザックのように凶悪な顔でも、ダミアンのような美形でもない。醜い傷痕があるわけでもない。顔が変形しているわけでもない。何故、仮面で顔を隠すのか……ザックにはわからない。
「二十枚しかないのか。じゃあ仕方ない。とりあえず……金貨を八枚くれ」
ザックがそう言うと――
「いやいやいやいや、無理じゃんよ! 明日にならないと金ないんだって! 商売してると何があるかわからんじゃんよ! 五枚! 五枚で勘弁!」
「……仕方ない。それで手を打とう。しかし、お前らは新しい魔法石の発掘場所を見つけたとか聞いたのだがな――」
「ああ、それ!? それウソウソ! デマデマ! 見つけたのは本当だけど、魔法石ちょっとしか出なかったよ! だいたい、魔法石見つけてたら……こんな工場潰してるじゃんよ」
そう言いながら、ヒューマンガスは下の階の方向を指差す。ザックは、目の前の男の印象が百八十度変わるのを感じた。先ほどまでと比べると、あまりにもノリが軽い……ムキムキマッチョな体で、じゃんよじゃんよ言われても困ってしまうのだが……。
「そうか……仕方ない。今日のところは金貨五枚で勘弁してやる。速やかに払うのだ」
「へいへい、わかりましたじゃんよ」
ヒューマンガスは勢いよく立ち上がる。そしてポケットの中から金貨を五枚取り出し、ペコペコしながらザックに手渡す。
「いやもうホントに申し訳ない、いやもうマジ勘弁、いやもう――」
「ええい! うっとおしい! その巨大な体を今すぐどけるのだ! 私は帰る! 邪魔したな!」
ザックは一喝し、そのまま帰ろうとした。すると――
「まあまあ、ちょっと待つじゃんよ。耳よりな情報があるんですよ旦那」
ヒューマンガスはその巨大な顔を、ザックの耳元に寄せる。
「実はですね、シアトル騎士団ってのがあるんですが……知ってますかい?」
「知っている。何やら格闘技大会などを主催する、ふざけた連中らしいという話を聞いたことがあるな……そいつらがどうかしたのか?」
「実は、そのシアトル騎士団にですね……」
・・・
ザックがウォーリアーズのアジトに乗り込み、リーダーのヒューマンガスと楽しく遊んでいる間、ロドリゲス兄弟は家でぐっすり眠りこけていた。そして猫娘のミャアは、シェーラの手を握り上機嫌で街を案内している。その後ろを付いて歩いているのが、パグ犬のデュークである。
「にゃはははは! こっちには野菜の市場があるんだにゃ。いろんな野菜が売ってるんだにゃ。ところでシェーラはピーマン好きかにゃ?」
ミャアはニコニコしながら、シェーラに話しかける。妹分ができたのが嬉しくて嬉しくてたまらない、そんな様子だ。毛皮のホットパンツからはみ出た長い尻尾は、ピタンピタンとシェーラの背中を優しく叩いている。
「ピ、ピーマンですか……あんまり好きではないのです……」
「にゃ!? 本当かにゃ! ミャアもピーマン嫌いだにゃ! 苦いから嫌いだにゃ! 一緒だにゃ!」
そう言うと、嬉しそうにシェーラを抱き上げるミャア。シェーラは照れた笑いを浮かべる。
「そ、そうですね……い、一緒なのです……」
「そうだにゃ! 一緒だにゃ!」
その後ろを、黙々と付いて歩くパグ犬のデューク。時おり、チラチラ後ろを見たりするが、基本的には二人から目を離さない。他の野良犬や野良猫とすれ違っても目もくれず、ひたすら真っ直ぐ付いて行く。
「あ、あの……そろそろ降ろして欲しいのです……」
「にゃ!? そうかにゃ! わかったにゃ!」
ミャアはニコニコしながら、シェーラを優しく降ろしてあげた。シェーラはミャアのテンションの高さと優しさを前に、戸惑いながらも嬉しさを感じているようである。
「シェーラ! 何かわからないことがあったら、遠慮なくミャアに聞くにゃ! ミャアが何でも教えてあげるにゃ!」
そう言って、胸を張るミャア。幼いシェーラが可愛くてたまらないようだ。
「は、はい……わかりましたのです……」
散歩を終えたミャアが、シェーラとデュークを引き連れて家に帰ると、ロドリゲス兄弟が仲良く魔法の水晶板を観ていた。
「お帰り」
「お帰り」
ニコニコしながら、声をかけるロドリゲス兄弟。そして水晶板からは、恐ろしく派手な服装の中年男とやたら声のデカイ中年女が、何やら喋っている映像が映し出されている。なぜそんなことが可能なのかというと……もちろん魔法だからである。
(何とこの商品、たったの銀貨一枚で買えます!)
(まあ、何てお安いのかしら!)
シェーラはその映像を見たとたん、目が釘付けになっていた。不思議そうな顔で、じっと水晶板に映る映像を眺めている。そんなシェーラの表情を見たミャアは――
「にゃ!? シェーラは今まで、魔法の水晶板を見たことないのかにゃ!? 初めてかにゃ!?」
「は、はい……初めて……見るのです……凄いのです……」
「にゃ!? だったら一緒にお芝居観ようにゃ! これから『紫頭巾ちゃん』が始まるにゃ! とっても面白いにゃ!」




