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シェーラは電気うさぎの夢を見るかもです そのご

 その後、モヒカンたちの態度の変化は驚くほど早かった。実に丁重な態度で、工場を案内する。老若男女、実に様々な種類の人間たちが革をなめしたり縫製作業などをしている中、ザックは進んで行く。

 そして階段を昇り、ボスのヒューマンガスのいる部屋に通された。ヒューマンガスとは顔見知りではない。しかし二度くらい、街で見かけたことがある。髪の毛は一本も無く、奇怪な白い仮面を被っている男だ。体つきは逞しく、ロドリゲス兄弟にも引けをとらないだろう。ただ、ロドリゲス兄弟と違い単純な筋肉バカではない、という噂も耳にしている。実際、ただの腕力自慢では、異世界バトル系ファンタジーに登場する悪党どものリーダーは務まらないのだ。

 そして周囲には、屈強そうな大男、笑いながら人を殺しそうな小男などの不気味な取り巻きが数人いる。エンジェルスのリーダーであるダミアンは、ヒューマンガスの半分くらいの体重しかないが、それでもザックと会う時にはボディーガードを外しているのに。


「あんたがザック・シモンズさんか。俺はヒューマンガス……一応、ウォーリアーズの代表をやらせてもらっている。で、俺に何の用だ?」

 ヒューマンガスの声は不気味なものだった。しかも、話す時も仮面はとらないらしい。ヒロコのいた世界では、三倍のスピードで動き回る、仮面を着けた彗星がいたらしいが、この男も三倍のスピードで動き回るのだろうか、などとザックは思った。まあ、このデカい体で動き回られたら、非常にうっとおしく感じるだろうが……。

「お初にお目にかかる。私はザック……ザック・シモンズだ。ヒューマンガスさんの噂は、あちこちで聞いてはいるが……まあ良くないな、あんたの評判は」

 慇懃無礼な態度で、そう言い放つザック。脇を固める男たちの表情が、一気に険しくなった。ヒューマンガス本人の表情は、着けている仮面のせいで見えないが、少し雰囲気が変わったような気がした。

「まあ、仕方ないだろうな……組織が大きくなれば、敵も増える。これは世の常だ。ところでザックさん、あんたはここに何しに来たんだ?」

 ヒューマンガスの声からは、はっきりとした不快の念が感じられる。さらに、ヒューマンガスの取り巻きの連中の顔色も殺気を帯びてきている。何かあったら、飛び道具が出そうな雰囲気だ。

 しかし、ザックは空気の読めない男である……読む気もないが。

「うむ……実はな、お金ガッポガッポでウハウハな生活をしている勝ち組のあんたに、ぜひとも頼みたいことがある。我々ザック・シモンズ冒険者ギルドはな――」

「ちょっと待て……何だその冒険者ギルドってのは? そんなものは初耳だ! いつそんな組織ができたんだ?」

 ヒューマンガスが話を遮り、語気荒くザックに迫った。しかし、ザックのペースは変わらない。

「聞いたことがないのも当然だ。今のところ、私の頭の中だけに存在している組織だからな」

「何だと……」

 白いマスク越しではあるが、ヒューマンガスの表情が歪んだのが見て取れる。さすがのヒューマンガスも、ザックからこんな答えが返ってくるとは思っていなかったのだろう。取り巻きの連中も、ただただ唖然としている。

 だが、ザックは止まらない。さらに喋り続ける。

「そうだ。ここまで来る道中に、私は考えついてしまったのだよ。うちにいるヒロコから聞いたのだが……何でも、異世界には冒険者ギルドという組織があり、そこに登録した連中はみな、ギルドに金を支払う義務があるらしい。そんな訳だから……あんたも是非、私のギルドに入ってくれ。そうすれば私の懐にドッカンドッカンと金が入ってくるのだよ」

 ザックはすました顔で、本人以外には理解不能な、かつ理不尽なことを言い放つ。

「一つ聞きたいんだが……俺がそのギルドとやらに入るメリットは……何かあるのか?」

 ヒューマンガスから発せられる、至極もっともな疑問。しかし――

「メリットか……この私と仲良く遊べる。それで充分であろう」

 またしても、ザックのふざけた回答。ついに、取り巻き連中が動いた。

「どっちの腕からへし折ります? 右ですか? 左ですか?」

 言いながら、ザックに近づく大男。しかし、ザックは右手の人差し指を大男の頭に向ける――

 次の瞬間、指先から飛び出す光の弾丸。そして爆発する、大男のモヒカン……スキンヘッドになってしまった大男は、怯えた表情で後ずさった。

 だが、次に妙な雰囲気の小男が進み出て来る。両腕に奇怪なデザインの刺青を入れた小男は、歪んだ笑みを浮かべながらナイフを抜く。いかにも、人を殺すのが楽しくてたまらない、といった表情だ。

 ザックはため息をつき、もう一度、指先を向ける。しかし――

「止めねえか! お前ら全員出て行け! 俺はこいつとサシで話をつける!」

 ヒューマンガスの一声。小男は無言のまま、ナイフをしまう。そして不満そうな表情のまま、部屋を出て行った。スキンヘッドになった大男がそれに続く。その後から、残りの者たちが続き、部屋にはザックとヒューマンガスの二人が残された。

「さてと、邪魔者もいなくなったことだし……この際、はっきりさせようか……どっちが上なのかってことを……」

 ヒューマンガスのドスの利いた声が、室内に響き渡った……。






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