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違法人・1

 ここは異世界である。名前は知らない。今、一部の出版業界で大流行りの中世ヨーロッパ風異世界に似ている。しかし、この世界を創造した神――全知全能の存在であるはずなのだが、やたらとミスする。違う人をトラックで跳ね殺し、挙げ句に転生させたりするのだ――は、中世ヨーロッパを断片的にしか知らなかったようだ。おかげで中世ヨーロッパには存在し得ないはずの品物があふれ、さらには全く理解不能な人種が大勢いる。

 例えば……この物語の舞台となるダゴンの街には『五忍者』と名乗る奇妙な集団がいる。忍者は中世ヨーロッパにはいないはずなのだが、なぜかこの世界には堂々と存在しているのだ……真っ昼間だというのに、何のためらいもなく五色の衣装を着て、民家の屋根の上を走り回り、弓を射たりブーメランを投げつけてきたりする、ハタ迷惑な連中である。一応、正義の味方らしいのだが。

 しかし、五忍者はまだマシだ。この街には……現在、町内はおろか近隣諸国にまで、その悪名を轟かせている魔法使いが住んでいるのである。

 その男の名は、ザック・シモンズ。一応、この物語の主人公に任命された男なのである。年齢は二十五歳くらい。中肉中背、主人公ではあるが……顔はとても怖い。目付きは異常に鋭く、への字に曲がった口をしている。どこからどう見ても完璧な悪人面なのだ。どう転んでも美少女に間違えられたりはしない。したがって、どう頑張ってもハーレムなんぞは作れない。もっとも、本人にそんな気はひとかけらも無さそうだが。たぶん、神にもそんな気はないものと思われる。


 その主人公であるザックは今、忠実な部下のロドリゲス兄弟とともに昼寝をしていた。ちなみにロドリゲス兄弟とは……この街で最も頭の悪い双子であり、同時にこの街で最も筋肉の発達した双子だろう。二人とも、ゴリラよりはわずかに小さいくらいの大きさである。

 そして三人は、中世ヨーロッパ風……にはとても見えない奇怪なデザインの建築物の中にいる。建物は金属の塊を伝説の巨神が力ずくでねじ曲げて住居にしたような形だ。三階の一室にて、ザックとロドリゲス兄弟は仲良く惰眠を貪っている。まっとうな人間が額に汗して働いているというのに、まったくけしからん連中である。神は怒り、そして新たな者を投入することに決めた。


「ちょっと! 何寝てるんですか!」

 怒鳴り声と共に登場したのは、ヒロイン……的なポジションにいる少女である。露出度の高い格好はしていない。ツナギのような作業服を着ているため、パンツが見えたりするような「ラッキースケベ」なる事態はあり得ない。ついでに言うとメイドでもない。奴隷でもない。神はメイドや奴隷が好きではないらしいのである。実は、神は熟女の方が好きらしいのだが……熟女を出すと、ドクシャの神みたいなのから雷を落とされるらしいので、渋々ではあるがヒロインを美少女にしたらしい。どんな美少女か、というと……たぶん整った顔立ちだと思う。理由は……古今東西、ヒロインはみな整った顔立ちをしているらしいからである。もっとも、整った顔立ちとはどんな顔立ちなのか、神もよく知らんが。そして電車に乗ってたら、痴漢に遭うかもしれないくらいのスタイルをしている。人通りの多い場所を歩いてたら、アイドルにスカウトされる確率は、猿が五歳で大学に入るよりは高いのではないかと思われる。


「あんたたち! 起きなさい!」

 その美少女ヒロインは、怒鳴りちらしながら三人を起こそうとする。しかし三人とも起きる気配がない。当然である。美少女ヒロインごときの声で起きるようなヤワな神経では、百戦錬磨の強者共や人知を超越した化け物共が集う異世界バトル系ファンタジーの主人公及びその部下は務まらないのだ。

 美少女ヒロインはこめかみをヒクつかせる。その時、開いている窓から侵入して来た者がいた。

「うるさいにゃ……何騒いでるにゃ……」

 美少女ヒロイン第二号の登場である。こいつもたぶん、整った顔立ちをしているが……猫のような耳と尻尾を生やしている奇怪な生物なのである。屋根の上で昼寝をしていたのだが、美少女ヒロイン一号の大声により、こいつが起きてきてしまったのである。言ってみれば、技の一号と力の二号といったところか。意味のわからない人は、お父さんかお母さん……あるいは特撮ヒーローに詳しい人に聞けばわかるかもしれない。わかったからといって女の子にモテるようになったりはしないが。


「ミャア! この三人起こすの手伝って!」

「えー……めんどくさいにゃ。ヒロコの声でも起きないなら……無理にゃ」

 この会話でおわかりのように、一号の名前はヒロコ、二号の名前はミャアである。そしてヒロコは……何と異世界からトリップして来たらしいのだ。ヒロインだからヒロコという、安易な発想で名前を付けたワケではない……たぶん。彼女は異世界にある、日本というサムライとスシとゲイシャとアニメが有名な国から来たのである。トラックには轢かれてないようだ。どっかのバカな神が間違えて送り込んだのだろう。しかし、神なのにバカ……よくよく考えてみれば、恐ろしい存在ではある。キレやすい若者に核兵器のスイッチを任せるのと同じくらい、危険な話だ。


 だが、そんなことはどうでもいい。ヒロコはついに痺れを切らした。





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