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アーリア  作者: 猿蟹月仙
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第5話『アウリーリン』

「アウリーリン」

 アーリアの手を取って微笑むこの小川の精霊、ウンディーネのアウリーリンは、川のせせらぎの如き清涼な声で名乗った。


 人の子と直に話すのは随分と久しい気がする。

 その多くは、そのまま目覚める事の無い、深い眠りについてしまう。

 中にはそうでない者も居るが、彼らが言うには、その者達の魂は大いなる巡りに戻ったのだと、だからいたずらに眠りをさまたげてはならないと。

 今日に至っては、話しかけられた様な気がしたので様子を見ていたら、どうにも嫌な響きが近付いて来たので、水の領域でも会話が出来る様にと、魔法をかけて招き入れてみたのだが・・・


「アウリーリン!」

 そう呼ぶと、穏やかに微笑み、青いお姉さんは小さく頷いた。

「アウリーリン?」

「○×□」

 泡の弾ける様な声で、どうやらそうだと言っているみたい。

「アーリア?」

「アーリア!」

 何度も頷いて、大きく両手を上下させた。嬉しいって伝えるのはこれしかないって。

 その視界の端を、白い小さな綿布が、動きに合わせて上下した。

(これって・・・)

 これまでに無いってくらい、サッと血の気が引いて、更にぶわっと血の気が昇った。

(下着~っ!? 下着下着下着下着~!!)


 それはおパ○ツとか俗に言われる、質素な綿地の、履き古した布切れが、小指に絡まってひらひらと・・・

 その時になってようやく気付く、一糸まとわぬ己の姿。

 パッと手を離して、咄嗟に後ろ手におパ○ツを隠すが、更に慌てて両手で前を隠し、更にくるっと反転してアウリーリンに、ほっそりとした背中を向けた。

「いやっ! このっ! そのっ! これは!!」

 大量の血流が、体内を縦横無尽に大爆走! 頭の中はその音響でガンガンに!

(ひぃ~~~~ん!)

 恥ずかしくって、思いっきり体を丸めてしまうと、またもぷかぷかとあらぬ方向へ漂って、これまた慌てて両手両足をバタバタバタバタ。

 そんあアーリアの足を、そっと押して、更には肩を。くるっと姿勢を直されてしまうと、世界は見事に一回転して元の姿勢に。

「おお~・・・」

「・・・アーリア・・・」

 目をパチクリするアーリアに、アウリーリンは小さく首を横に振り、それからアーリアの両肩に手を置いて真っ直ぐに見つめた。

 そんな相手の仕草に、ちょっとばつの悪い恥ずかしさで目線を逸らし、おずおずと見返す。すると、アウリーリンは目線で左の下の方を見る様に促し、アーリアはそのままに見てみた。


 川底の丸石には、ちょっとしたくぼみが幾つもあり、そこにアウリーリンの物らしきチェストが置いてあったりと、小さな空間に細々とした物が置いてあった。

 そこへ、手招きしながらアーリアの手を引いて行き、アウリーリンはその中から一組の衣装を取り出して、さあどうぞと手渡してみた。

「これを、私に?」

 驚くアーリアに、身に着けてごらんなさいと微笑み、ゆっくりと広げて見せると、それは今、アウリーリンが身に着けているものと寸分違わぬ、水色に輝くドレスに・・・

「こ、これは!?」

 思わず息をのむアーリア。震える手でそれに触れると、そっと持ち上げてみる。

「お、お、大人下着・・・」

 綺麗な色彩の様々な小石が散りばめられたそれを、アーリアは差し込む陽光にかざしてみると、それは水面の揺らめきと相まって不思議な光彩を放ち続けた。


「あは~ん♪」

 履いてみた。

 なんとなくそんなポーズ。するっと、乳あてがくるぶしまで落ちた。


 ず~~~~~~~~~~~~~~ん・・・


『あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”・・・』

 がっくりうなだれるアーリア。出来る事ならこのまま地底深くまで沈み込んで、誰の視線にも触れたく無かった。全身の力が抜けると、まるで屍になった気分で、ぷか~り浮き上がった。

 そんなアーリアに、ちょっと慌ててドレスを肩にかけてあげるアウリーリン。

「これはどうかしら?」

 言葉は通じて無いみたいだけど、ニュアンスが伝わるかもと。

 すると、アーリアは弱々しい微笑で、それにそっと手を。


「うう・・・」

 手と足といろいろ長さが足りない事が判る。判りまくる。何で出来てるのか皆目見当がつかないが、この半透明で艶やかな光沢を帯びたこの布地は、思いっきり余りまくった。アウリーリンが綺麗な小魚ちゃんなら、アーリアはまるでなまずか何かみたい。

「うううう・・・」

 現実に打ちのめされるアーリアに、はらはらと手をこまねくアウリーリン。ハッと思いつき、つい今しがたまで忘れていた物を取り出して、さっと目の前に差し出した。

 それは、アーリアの荷物。

「あ~~~~~っ!?」

 思わず大声を上げて、マントに包んだリュートを引っ張り出す。

 楽器は濡らしてはならない。湿気は楽器の敵。そう教わって来たのに、ここは水の中なんだ!

 はらはらと水底へ落ちていくアーリアの衣服。そしてその手には、先生の形見のリュートが・・・

「えっ!?」

 触ってみると、異変にたちどころに気付く。

「濡れて・・・無い・・・?」

 目を大きく見開いて、表面をまじまじと見つめる。それから、さっと小脇に構えると、ぼろろ~んと掻き鳴らしてみる。

 すると、水底に乾いた音色が響いた。


「凄い! 凄い! 魔法だねっ!! 魔法でしょっ!?」

 水の中にあって、濡れて無いリュート。

 それからパッと面を上げてアウリーリンへ。

 その向こう、ウンディーネのアウリーリンは、ちょっと考えた様な表情から、少しいたずらっぽく微笑み、右手の人差し指と親指で、ちょっと・・・とばかりに示して、一言、二言、その魅力的な唇を楽しそうに動かした。

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