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自宅警備兵  作者: SIN
7/50

LEVEL0・2

 今、俺の目の前には食い逃げ犯がいる。

 食い逃げをする人間を始めて見たと言う一種の感動で追いかけるのが一瞬だけ遅れ、犯人は千手観音が追いかけて行った。

 こんなドラマみたいな事、本当にあるんだな。

 食い逃げした犯人は50手前位のオバサンで、本物かどうかは分からないがブランドのロゴが入った鞄を持っていた。

 そのオバサンは千手観音曰く月1位で来るクレーマーだと言う。

 クレームを付けながらも月1と言うペースで来るんだから、ちょっと注意をしたいだけのオバサンだろ、それなら噂話と言う餌に食らい付き、口から機関銃をぶっ放して来る最終兵器型オバサンの方が恐ろしい。

 そう、思っていたんだ。ついさっきまでは。

 まさかまさか、食い逃げと言う暴挙に出るとは思わなかった。

 食い逃げしたオバサン未払いの伝票をエプロンのポケットに装備し、千手観音を追いかける。

 クレーマーと言う位だ、大声で食い逃げだの、金払えだのと言いながら追いかければ後から名誉毀損だとか言って文句を延々と言って来るに違いない。

 しばらく走っていくと、本屋の前で千手観音が店の名前入りのエプロンを付けた姿にも関わらず、物凄い人相の悪さで中を睨み付けて立っているのが見えてきた。

 どうやら犯人は多数の人間がいる本屋に逃げ込んだらしい。

 大型店舗ではないその店内は、普通の話し声でも会話の内容が聞こえる位に静かな空間、一度食い逃げやら金払えなどと言えば不特定多数の人間の耳にソレが入るだろう。

 食い逃げをしたと言うそもそもの罪を名誉毀損でかき消そうと言う作戦か?

 「ここにいて下さい」

 千手観音に声をかけて店内に入ると、エプロン姿は非常に目立ったらしく結構な注目を集めた。

 これも犯人の作戦の1つか?

 注目していれば、小声だろうとその内容は余す事無く耳に入るだろう。

 自宅を守れなくなった俺は、バイト先である定食屋を守ると言う新しい任務についている。その定食屋に、この犯人は月1で来ると言う誰が聞いたって間違いなく完璧なお得意様だ。クレーマーであろうともこれまで通ってくれていたと言うのに、何故今日食い逃げと言う事になったのかは分からないが、お得意様を警察に突き出すのは正解なのだろうか?食い逃げをした時点でお得意様と言う階級は剥奪されるのだろうか?

 ただ、確実に言えるのは、腹立たしさに任せて食い逃げと叫べば、後で必ず面倒な事になると言う事だ!

 「お客様、店内にお忘れ物です」

 声をかけながら本屋の出口までエスコートし、外で待っていた千手観音と2人で犯人を店にまで連れて戻ると、店長は俺が言いたくて我慢していた単語を犯人に告げた。

 「奥さん、あんたね、これは無銭飲食ですよ」

 日曜日の午後3時、店内には他の客もおらず、店長の声は俺達しか聞いていない。なにかにつけて言い逃れをするつもりだったのだろう、犯人の目は忙しなく泳いでいる。

 こうして完全勝利を収めた店長は、食い逃げ犯が注文したとんかつ定食の代金750円を手に入れたのだった。

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