22 th BREAK
土曜日、帰宅した弟が旧母親の家に出かける準備をしながら俺の顔を見ている。
これぞまさしく無言の圧力。非常に鋭い眼光で「来い」と言われている。
「強制?」
悪足掻きをしてみるとグッとフードを掴まれ、玄関まで連行。そして足元に置かれるのは靴。
どうやら完全に強制らしい。
車で行くと駐車料が物凄くなる上に酒が飲めなくなると言うので、電車で行く事になった。
流れていく景色を眺めながら、
「あれ?あそこのパチンコ屋なくなってるやん」
「結構前からないで」
「ここ駐車場になってるけど、元はなんやったっけ?」
「あ~…なんやったっけ?」
と、なんとも緩い会話を無表情で繰り広げる俺達が乗る電車は、30分もしないうちに目的の駅に到着した。
自分らの酒は自分らで買って来い。と言う事なので、旧母親の住むマンションに向かう途中にあったスーパーに立ち寄り、チューハイを2本ずつと、一泊させてもらうと言う身なので6缶入りビールとビックサイズのスナック菓子を購入した。
イザ!旧母親の家へ!
ピンポーン♪
久しぶりに見る旧母親はかなり…大分、くたびれていた。痩せたとかそう言うのもあるのだろうが、顔色が酷いし、クマが凄いし、何よりも俺の知る旧母親ではありえない事にスッピンだったのだ。
そんな旧母親は、俺を見るなりこう言った。
「お前大丈夫なんか?」
その言葉をそっくりそのままお返しする!
部屋に通され、速攻で始まる飲み会。
旧母親のおもてなし料理、サーモンとアボガドのカルパッチョを食べ、甥と姪に全力で懐かれている弟を眺めながらチューハイを飲んでいると、夕飯の買い物に行くからと旧母親が立ち上がった。
「デートしよ」
と、俺の腕を掴みながら。
腕に感じる旧母親の手はかなり細い。
チューハイやビールを買い足すつもりなら、買い物袋はとんでもない重量になる筈。荷物持ちは必要だ!だがここで弟を連れて行くと、甥と姪までが付いて来てしまうだろう。そうなれば買い物をすると言うだけの行動が重労働になってしまう。
分かったと返事して、1時間ほど前に弟と来たスーパーに入ってカゴを持つ。
「晩飯なに食いたい?」
突然尋ねられ、かごの中に入っている食材に視線を落とすが、ビールとチューハイしか入っていない。
おもてなし料理を食べた後なので腹は減っていない。なら軽い物でも…いや、弟があの量で満足しているとは考え難い。それに、食べ盛りの甥と姪がいるのだからガッツリ系が良いだろう。となれば肉…人数が多いし焼肉でどうだろう?今日はネットカフェ代が浮いているので1000円位なら出せる。国産に拘らなければ1000円でも結構な量の肉が買える筈だ!
「焼肉はどうです?肉代少し出します」
「金はイラン」
今まで笑顔だったというのに突然俺を睨む旧母親。
どうやら「金を出す」という言葉が心底気に入らなかったらしい。ならここは甘えて…良いのだろうか?
食い下がった所で機嫌が悪くなっていくだけなのだろうが、焼肉と言った本人が1円も出さないのはどうだろう?
少し考えた後、店内に設置されている自動販売機で旧母親と姉の吸っている銘柄のタバコを買った。
後はこれをどう渡すか、だ。
直接手渡した所でイランと言われるのがオチだろうから、スグには見付からないが毎日使う物の傍に仕掛けておくのが良いだろう。
こうして俺はタバコをコッソリ化粧台の上に置き、手鏡を上に乗せて軽く隠した。
姉が帰って来てから始まった焼肉パーティー。
良い具合に焼けてきた肉…を物凄い勢いで奪い合う親子。
「おかーさんが肉取った~」
大事に焼いていた肉を姉に持っていかれた姪が言うと、
「サチ!子供に食わせぇ!」
旧母親が姉を一括。しかし姉は、
「アタシだって腹減っとるんや!」
と、容赦なく肉を口に運ぶ。
「バァバ、ジャガイモ焼けた?」
そんな姉の隣にいた甥は、まだほぼ生のジャガイモを箸で突いている。
「あ~、まだまだ。キャベツ食べキャベツ」
旧母親は甥の皿にキャベツを乗せ、第2陣となる肉を鉄板の上に並べた。そしてその肉が焼ける頃、再び始まる親子の戦い。
俺は、旧母親が何故痩せ細ってしまったのか、その原因が分かった気がした。




