15 th BREAK
エアコンがないと快適に過ごす事が出来ない熱帯夜の火曜日。
ヘッドフォン越しにも聞こえるドンドンと言う激しいノック音が、部屋のドアからではなく、窓からしてきていた。
時間は1時を越えていたので真夜中に違いなく、親父も新母親も弟も寝ている時間だった。
ヘッドフォンを外してしばらく経つと、またゴンゴンと窓をノックする音。こんな時間に誰だ?非常識な奴だ。
と言う事は、わざわざ出なくても良いだろう。
その後も何度かゴンゴンとしていた不審者だが、諦めたのが駐車場を立ち去った。
しかし1分後、今度は台所の窓をゴンゴンと叩く音が響き始めた。
誰だ!?
こんな時間なのだからセールスではないだろうし、友達が遊びに来たという訳でもないだろう。
もう1度時計を確認するが、夜中の1時。
やはりここは無視するのが良いに違いない。
そしてしばらく、台所の窓に写っていた手の影がスッと消え、足音が遠くに行った。そしてまた1分後程。
ガンガンガン!
部屋の窓を叩く音。さっきよりも激しい音は親父達の部屋にまで響いていたのだろう、ギシッと2階で足音がした。
少しすると無音になる。
帰ったのか?それとも…。
ドンドン!
また台所の窓を叩く音。
誰なんだ?こんな時間だぞ?
訪問者が誰だろうと関係ない、非常識だとか言うのもどうだって良い。それよりなにより、怖いんですけど!
いや、ここまでしつこいんだから窓を開けて「何時だと思ってるんだ」と怒ってやった方が不審者も帰りやすいのではないだろうか?いやいや、相手は不審者なんだから窓を開けた時に襲い掛かってくる可能性がある。
窓を叩く音は親父達の睡眠妨害になっているのだから「いい加減にしろ」と親父が窓を開けてしまうかも知れない。
大黒柱に可笑しな事があっては一大事!ならここは俺が…。
ピンポーン♪
インターホンを鳴らしよった!
夜中の1時!しかも平日に、インターフォンを鳴らしよったぁ!!
ギシッギシッと2階を歩く音、トントンと階段を下りてくる音。まずい、親父が玄関を開けようとしている。
カラカラカラ。
親父が1階に降りて来る前に台所の窓を開けた。するとそこには良く知っている人物が…姉が立っていた。
カチャ。
外にいる人物を確認した後、玄関のドアは親父によって開けられた。
「これには訳があって…」
何よりも先に言い訳を始める姉、それによると仕事場から家に帰るまでの電車代を落としてしまい、帰れなくなったとか。
仕事先から自分の家までは2時間半はかかる距離で、ここに来る方が近かったから。と姉は言うが、距離的には言うほどの差はない。それなのにこっちを選んだ理由はなんだ?しかも、夜中の1時にだ。
「ケン寝てるし、お前の部屋で寝かせてやってくれ」
一通り言い訳を聞いた親父は、眠たそうに欠伸をしながら2階に上がって行ってしまい、ダイニングには俺と汗にまみれた姉だけにされた。
「悪いなぁ…。悪いんやけど、そこにあるラーメン食べて良い?」
電車代しか持ってなかったのなら、晩飯を食べていない?と言う事は、そんなにも汗をかいているのに水分補給もしてないとか!?
仕方ない、家に入れてしまったのだからお客さん。歓迎するのは間違っているが、最低限の事はしなければ。
「余り物ですけど、飯の用意します」
そんな訳で冷蔵庫の中に入っていた余り物と麦茶を姉の前に出した。しかしそれでは歓迎しているようにしか取られないので、電子レンジで暖める事はしなかった。
用意した食事を全て綺麗に平らげた姉は、冷蔵庫に入っていた親父の缶ビールを2本飲んだ後、化粧も落とさずに俺のベッドで就寝。
俺は徹夜する事が決まっていたので、パソコンに向かう。
朝まで暇なのだからそれは自然な事ではあるのだが、調べたい事が1つ。
「9時に起こして」
と頼まれたので、目覚まし時計程度では起きない相手を確実に起こさなければならない。以前のように体を揺すって起こそうとすれば、また肋骨にダメージを受ける事になるだろう。
やっと痛み止めを飲まなくても生活出来るようになったのだ、悪化させるような事はしたくない。
さて、人の起こし方だ。
色々見て面白そうなものをいくつか試す事にして、9時。一応セットしていた目覚まし時計が鳴った。
「う~~~」
手を伸ばして目覚ましを止めた姉。
あれ?今日はやけにアッサリと起き……る筈はなく、間髪入れずに2度寝ガ始まっていた。
よし、調べた事を試す時が来たようだ!
ハンドタオルを濡らしてレンジでチン♪アツアツを顔にポトっと落としてみたがスパンと払い落とされただけに終わり、続いて氷を入れた袋を額にピト。スパン再び。
「お客さん、終電ですよ!」
効果なし。
次にやったのは、体を揺するのではなく頭を揺すれば良いと言うもの。
ベッドの上に立ち、姉の頭を両手で持ち上げるようにして持ち、ユッサユサ。
「う~~~!」
寝返りと見せかけての攻撃が来たので慌てて後ろに飛び退き、その勢いのままベットから落下。大失敗に終わった。
最後に試したのは、何があっても睫毛を触り続ける、と言う物。
コショコショコショコショ
「起きろー」
「う~~~」
コショコショコショコショ
「9時ちょっと過ぎたでー」
「ん~~~もーちょっと寝る…」
コショコショコショコショ
「う~!」
コショコショコショコショ
「起きろー」
「鬱陶しい!」
白目ではあるが目が開いた。
「よし!起きろ!もーちょいや。頑張れ、起きろ!」
耳元で声をかけ続ける事2分程、姉はヨロリと起き上がった。
初めて姉に勝った!




