LEVEL-12
ダイニングでかなり豪快な大の字で眠る姉、時間は7時を過ぎた辺り。後2時間もすればバイトに行かなければならない。
そろそろ起こしにかかるとするか。
しかしどう起こしたら良いものか…。
あ、目覚まし時計。
家にある目覚まし時計の中で1番うるさいのは親父が使っているもので、徐々に音が大きくなって行くという代物、そしてスイッチを押しても後ろ側にあるスイッチをちゃんとオフにしなければ5分後にまた鳴り始めると言う少々厄介な奴だ。
2階からそれを持って来て、10分後に設定して姉の耳元にそっと置いた。
後はラテでも飲みながら優雅に10分待とうではないか。
ピピピッピピピッ
アラームが鳴り始めた。可愛らしいその音で姉が起きるとは思っていないので、しばし放置。
ビビビッビビビッ
1段階音がレベルアップしたが、寝返りさえ打たない姉。
ビリリリ!ビリリリ!
ここまで大音量で鳴る物なのか?これはご近所迷惑著しい騒音レベルじゃないか!にもかかわらず何故起きない!?
音量は関係なさそうだ、ならもう少し大人しめの目覚まし時計を延々耳元で鳴らし続けてみよう。
ピーピーピーピーピー
よし、これで良い。少々耳障りだがヘッドフォンをすればなんの問題もない。
曲の向こうに聞こえるアラーム音と、1回大きく伸びた姉。だからもうスグに起きると思ったのだが、伸びた姿勢のまま動かなくなり、規則正しい寝息。そして止まるアラーム。
目覚まし時計が起こす事を諦めよった!
仕方ない、直接起こすしかないようだ。
肩をユサユサと揺らし、素早く後ろに避ける!揺らしてー避ける!
これはこれで痛いな。そうだ、攻撃が出来ないように体を押さえてしまえば良いんじゃないか。
「起きろー」
そう声をかけながら毛布をかけ、姉を跨いで毛布の上に立った。これで両手は使えまい。
「起きろー朝ですよー」
ピシピシと額を叩く。
何度目かの攻撃の後、姉は僅かに目を開けた。しかし白目である。
朝からとんでもなく体力を使ってしまったのだが、結局姉は起き上がるまでの覚醒には至らなかった。
「バイト行ってくる。昼過ぎに一旦帰ってくるから、それまで留守番しててや」
毛布に潜り込んでしまった姉に声をかけると、
「ん~」
との返事。
かなり不安はあったが、昼のピークが終わるまでの5時間位は大人しく寝ていてくれるだろう。目覚ましにも屈しないのだから後5時間位は寝ていてくれる筈だ!
バイトに向かい、無事にピーク時間を乗り切り、急いで掃除をしていると、来客を告げるアラームが鳴った。
こんな急いでいる時に。とホールに出て見ると、そこには何故か姉が立っていた。
あれ?何でいるんだ?
「鍵は?」
駆け寄って聞くと、姉は少々不機嫌そうに俺を上から下まで何往復も見ながら、
「持ってへんねんから出来る訳ないやろ!」
と。
だったら家で大人しくしてろ!バイト前にそう頼んだだろ!
全力疾走で家に帰った。
途中で完全にスタミナが0になってしまったが、それでも走り続けた。
ゴホッゴホッ。
咳込みながら走り、家に到着して勢い良く中に入って不審者がいないかの確認をし、戸締りも確認。換気の為にと開けていた窓は全て開けっ放しになっていたが、不審者の姿はなくホッとしてダイニングに敷いたままの毛布に寝転がった。
そこへ水筒のお茶補給に弟が戻ってきた。
「薬飲む?」
と、何も言わなくとも目の前に白湯が出てくる。
これからバイトに戻る事を考えると薬は飲んでいた方が良いだろう。
さて、痛み止めを飲むか、咳止めを飲むか、それが問題だ。
飲み合わせとしては最悪な組み合わせなので併用するのは危険で、その上痛み止め成分配合の湿布を貼っているのだから事態は更に難しい。
湿布と鎮痛剤の併用はするなと医者から言われてるから咳止めか。しかしこの咳止めと湿布の併用は良いのだろうか?
2種類の薬を前に考えていると、買い物袋を下げた姉が戻ってきた。
「晩飯、肉じゃが作ったるからな」
物凄い笑顔だ。
鍵をかけずに買い物に出かけると言う事が、姉の所では普通なのだと理解させられてしまった。
咳止めを飲んでバイトに戻り、2日連続で定時にあがらせてもらって家に帰る。
ビール片手に自身作の肉じゃがを食べている姉、その横には甥と姪に作った燻製チーズを入れていたタッパー。
全部食ったのか!?
昨日多めにチーズ買ってて良かったよ!
姉のお手製肉じゃがで酒を飲んでいると弟も帰ってきて、昨日と同じような流れで兄弟3人の飲み会がスタートした。
楽しそうに喋る2人に背を向け、俺はお土産用のチーズ燻製を作りながら肉じゃがの肉をお代わりする。
肉は、正義だ!
こうして1時間もしないうちにビールが切れたと缶を潰す姉。
よし、今日はここでお開きだ!
「そろそろ帰る?」
完全に追い出しにかかると、姉はやっと1人で来た事の説明を始めた。
どうやら、物凄い勢いで旧母親と喧嘩をしたらしい。そして今日も泊めて欲しいと言ってきた。
明日は水曜で休みなのだが、どうしたって承諾出来ない理由が何個かあった。
もしここで泊めてしまえば「頼めば泊めてもらえる」と喧嘩の度に来る可能性があるし、それよりなにより今日は子供の日なのだ。
「今日は泊められへん」
スパッと言うと、何でやねん!と手を振り上げた姉。そして、
ズビシッ!
何故、ピンポイントで攻撃して来るかっ!
「駅まで送るわ」
と、弟は2階に行き、ササッと着替えて下りてきた。どうやら弟も姉には帰って欲しかったようだ。
何故か姉は弟の言う事は素直に聞くと言う性質を持っているので、渋々荷物をまとめ始め、3人で駅まで歩いた。駅には1軒のケーキ屋があり、そこで弟は甥と姪にと言う事でケーキを買って姉に手渡し、姉は笑顔で手を振り帰って行った。
「おつかれー。大丈夫か?」
「おつかれ。明日休みやしゆっくりしとく。お前も寝不足やろし、帰って寝ろ」
改札口を抜けて手を振る姉に手を振り返しながら、俺達はお互いを労ったのだった。
水曜日は1日ゴロゴロと安静に過ごしていたにもかかわらず肋骨のダメージは抜けきれず、木曜の朝1番に病院に行った。丁度湿布が切れてしまったので、その序に。
「SIN君、安静にしてた?」
と聞かれたので、俺は素直に答えた。
「酒盛りをして、肘鉄食らって、500m.程を全力疾走しました」
と。




