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自宅警備兵  作者: SIN
17/50

THIRD BREAK

 日曜の昼過ぎ、ピーク時を過ぎた店内に客はいない。

 食器も片付け終わっており、後は上がる時間を待つだけのこの時間は、1日のうちで1番眠くなる時間でもある。

 座っていたらウトウトしてしまうので店内をウロウロしながら割り箸や醤油が切れそうなテーブルがないかを見て回るが、そんな点検等10分もかからずに終わってしまう。

 「木場さん、加湿器って持ってますか?」

 厨房に戻ると待ってましたとばかりに千手観音が話しかけてきた。それにしても何故加湿器だ?

 「持っていますが、使ってません」

 乾燥しているのと、見えない所にカビが繁殖しているのと、どちらが家にとってのダメージか?と考えた場合、乾燥している方が平和だと言う見解に至りスイッチを1度も入れた事がないまま押入れに入れている。個人的には除湿機をつけたい程なのだから綺麗な粗大ゴミだ。

 「ですよね!つけると結露も酷いし、何か臭いし」

 黙っていると次々と喋ってくる千手観音の話を一言にすると、加湿器を巡って恋人と喧嘩中。らしい。

 喧嘩出来る相手がいるってだけで羨ましいわ!

 俺ならきっと彼女が寝るや否や電源を切るとか、押入れの中で除湿機のスイッチを入れるとかするだろうが、それを言って千手観音が実行した場合、更なる喧嘩の材料となる恐れがあるのでアドバイスはしないでおいた。

 今のまま1時間に1回窓拭きしているのが平和・・・待て、電源を入れて臭いと言ってたな。

 「臭いのは雑菌のせいです。週に1回は洗ってください」

 雑菌を撒き散らしてまで空気中に湿気が必要なのだろうか?乾燥による健康被害よりも、雑菌による健康被害の方が深刻じゃないのか?しかもその上結露によるカビの繁殖・・・ますます加湿器が何の為にあるのかが分からなくなってきた。

 喉を使う仕事をしている人なら、喉を守る為に湿度は重要になってくるのだろうが、一般人で何故そこまで湿度にこだわる?あぁ、お肌対策とか言う奴か。それでも雑菌を撒き散らす行為は間違ってる。

 なんにせよ、部屋の主が彼女なのだから千手観音は1時間に1回の窓拭きと、週に1回の加湿器掃除をするしかないだろう。

 「俺なんかゴミや、ゴミムシやぁ」

 何を唐突に。

 加湿器で起きた喧嘩位でそこまで悲観出来るのは一種の才能だと思う。

 「石の裏にいる奴ですか」

 「実在してない方のゴミムシですよ」

 なにそれ!?

 謎の生物を勝手に生み出すなよ!今かなり気になってしまったじゃないか!

 そのゴミムシとやらの特徴を教えてもらうとしよう。

 「大きさはどれ位ですか?」

 え?と何度か発音し、少々考え込みながらも

 「えっと、ちっこいです」

 と、答えた千手観音。

 実在しない方のゴミムシと未知の生物を豪語していたにもかかわらず、その外見はまだ出来あがってなかったらしい。

 ならば、次はソイツの形だ。

「カブトムシみたいな感じ?それとも蚊みたいのです?」

 ガッシリ系か、もやし系か。実在しているゴミムシの全てを知っている訳ではないが、知る限りはガッシリ系。

 「蚊」

 小さくてモヤシ系か。

 「羽は?」

 どんな形なのか、そんな意味で質問すると、

 「ありません」

 と。

 蚊みたいなのに羽がない?どんな貧弱な虫なのだろう?

 「人になにか害を?」

 「噛み付きます!」

 噛むのか!?

 食い気味に答えるほどそのイメージだけは明確だったんだな。

 「その時人は痛みを?」

 「感じません」

 ここは蚊みたいなのか。だったら、

 「噛まれた後腫れたり、痒くなったりは?」

 「特にしない」

 噛むだけで無害だと!?

 じゃあなんの為に噛むのか・・・普通に考えれば食事の為だが。

 「どういった時に人を噛む?」

 「ちょっとイライラした時に」

 食事関係ないのか!?

 細くてきっと弱いだろうコイツが、ちょっとイライラしただけで人間に噛み付くという危険行為を行うなんて・・・即刻それを止めさせるんだ!

 この時、俺の頭にはかなり小さなカマキリの子供に似た生物が、人間の小指に必死でしがみ付きながらカプカプと噛んでいる図が浮かんでいて、今にもピンッと弾かれそうになっていた。

 「コイツの主食は?」

 とりあえず着地時点にマットを用意して、何か好物でも出してやろう、そんな事を思いつつ主食を聞いてみたのだが、

 「ゴミ・・・なにこのもっさえぇ奴!」

 と、千手観音は千手観音で未知の生物に対する愛着が湧いたようだ。

 俺はその後、想像上に出来上がったゴミムシにソッとキャベツの芯をあげたのだった。


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