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自宅警備兵  作者: SIN
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LEVEL-5

 新年が明けての朝、当然のように泊まったお客さん達がダイニングに下りて来て、俺と弟は特に会話もなく全部で5人分ともなる朝食の準備を始めた。

 泊まりに来るとは夢にも思っていなかったので家にあるのは6枚切りの食パンが1袋。

 5人だから1枚残る計算だが甥と姪は食べ盛り、1枚半ずつ食べさせて、後は目玉焼きを作るとしよう。

 焼きあがった食パンにマーガリンを塗って皿に置いたと同時に始まる朝食タイム、パクパクと美味しそうに食べてくれるのは作った側からして見ると非常に嬉しい。

 食パンを食べきる前に卵を出してやらないとな。

 一旦台所に戻り卵を持ってダイニングに戻る頃、食パンを置いていた大皿の上は空になっていて、甥と姪がそれぞれ2枚目の食パンを頬張っていた。

 まぁ、良いか。普段から朝食を抜く事が多いんだから何て事ない。それに腹が減ればおでんを食えば良いんだ。

 朝食後、食器を片付けようと台所に立つと姉が後ろからやって来て食器洗いは自分がすると名乗り出てきた。

 急に来た事についてなにか思う事があるのかは分からないが、折角の申し出なのだと受け入れて数秒。

 ガシャン、パリーン。

 やりよった。

 ガシャンガシャンと酷い音を立てながら食器を洗い終えた姉は、結局食器を割った事に関する話題を口に出す事無く弟と2人で酒を飲み始めた。2人の間にある会話は仕事に対する愚痴である。

 大して面白くもない会話を聞きながら酒を飲み、少し空腹になった所でおでんに火をかけた。鍋自体が大きいので具まで火を通すとなれば結構時間がかかる。この調子で行くと腹が減ったと感じる頃に丁度良い具合に煮えている筈だ。ならその間に追加で酒を買いに出るか。

 「火かけて行くから、ちょっと見ててな」

 愚痴大会をしている弟に声をかけて外に出て思い出す、そうだ、昨日近くのコンビニで少しばかりの問題があったんだっけ。

 けど、まぁ・・・俺が直接問題を起こした訳でもないんだ、いちいち寒い中を遠くのコンビニに行く事もないよな。

 と、近くのコンビニに向かい酒を物色。食パンも購入して家に帰るとダイニングでは愚痴大会が終わっていて、今は昼食大会が始まっていた。まだ火をかけて間もないおでんは普通に食べるとぬるい。そこで弟がおでんを小出しにして電子レンジで暖め、それを甥と姪、姉が貪り食うと言う流れ作業が繰り広げられていたのだ。

 分かってる、子供達が成長期であると言う事も、親父の作るおでんが超絶美味しいと言う事も。だからこそこの食いっぷりになっているのだろうが、それにしたって可笑しいだろ・・・計算が合わないと言うか、信じられない。

 毎年正月はおでんで、たっぷりの具材を入れるから昼と夜をおでんにしたって3日位までは普通にあるんだ。けど、何故だろう、今日はまだ1日だと言うのに後半分程しかない。この調子だと今日の夜には食い尽くされてしまう。

 元旦から開いているスーパーはないから、明日までは家にある食材で何とかしなければならない。下手をすると成長期で恐ろしい食欲の子供の空腹を割高のコンビニ弁当で凌ぐ羽目になる。あのおでんの山を1食で半分にまで減らす胃袋は、コンビニ弁当何個で満足するのだろうか?

 考えただけで恐ろしい。

 なんとかして食べる物を生み出さなければ!何がある?何が出来る?

 冷蔵庫の中にはキャベツや白菜の野菜類に、卵。ボールの中には塩抜き中の数の子、戸棚の中には小麦粉や餅などがある。

 おでんの残り出汁と白菜、餅で雑煮が作れるか、卵と小麦粉があってマーガリンもあるからおやつにクッキーを焼こう!子供用のジュースを炭酸系にして空腹を誤魔化しつつ、ジャガイモを使ってフライドポテト!それでも足りなかったら明日の朝用に買った食パンでも齧っていてもらおう!

 今日も泊まるとか言い出さない限りそれで凌げる筈だ!

 「わぁ~!見て、雪ふってる!」

 窓を全開に開け放った子供が興奮気味に声を上げ、何気に外を見てみると確かに雪が降っていた。チラチラとかそんな優しい物ではなく道や自転車のサドルが真っ白になる程の勢いで、だ。

 そんな景色を見た姉は、かなり自然体のまま呟いた。

 「明日帰ろ」

 帰って欲しいのに、姉の発言に賛成しか出来ない。こんな雪の中を帰れなんて言えないだろ・・・こんな中を出歩くなんてテンションが上がりまくった酔っ払いか、元気が有り余った子供位だ。

 あぁ、そうじゃない。干していた洗濯物を取り込まないと。

 2階に駆け上がり洗濯物を取り込もうとベランダに出た所で何故だか一気に疲れが出てきて、しばらく動く気にもなれず曇っている空を見上げた。

 親父達も雪にあっているだろうか?帰りのバスか電車が雪で立ち往生って事になったら大変だな、そんな事を思いながら洗濯物に手を伸ばすが、丁度その時に聞こえてきた甥と姪の騒ぎ声にまた動くと言う気力がなくなってしまった。

 手強い敵を迎え撃つ準備が出来ないまま行き成り押しかけられたと言うのは、内面を抉るタイプの攻撃だったのか?それとも今日も泊まると決定した事に対する絶望か。

 いや、それでも昨日みたいな目立った問題が起きている訳じゃないんだから穏やかな元旦を向かえる事が出来ている筈だ。それに、手強い敵は朝から弟が押さえてくれている。なにもせずに飲んでいるだけの俺が憔悴していてどうするんだ?この家を守らなければならないんだぞ!ここで奮起しなければ!

 洗濯物を取り込みダイニングに戻ると、姉と弟はまた決して盛り上がる事はない仕事の話をしていて、子供らは外から持ち込んだ雪をテーブルの上に広げて雪ダルマを作っていた。

 食事をする所に何を置いてんだ、親がなんの注意もせずに話に夢中ってどうなんだよ!それと、昨日に買ってたお菓子は自分のつまみであって子供用ではなかったんだな。

 もう、何をどうツッコめば良いのかが分からなくなってきた。

 「今から雑煮作るからテーブルの上片付けて」

 なんとか奮い立った気分を維持したまま台所に立って食料を確認して見ると、雑煮に使う餅が、4個しかなかった。

 仕方ない、今日から俺は餅が嫌いな人と言う事にしよう。

 ほとんど具のない雑煮を食べながら隣で繰り広げられている仕事の愚痴大会を聞き、見る限り美味しそうには食べていない甥と姪の食いっぷりを眺め、石油ファンヒーターの3時間延長を催促するピーピーと言うアラームを聞く。

 平和と言われれば平和な空間の中、ボンヤリと頭に浮かんでくるのは決して口に出す事が出来ない本音だ。

 一体、何しに来たんだろう。

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