復讐の心
海香と恋人になってから数日が経った。依然海香は病院でリハビリを続けているが、早く退院して俺と一緒にいる時間を伸ばそうとして、一生懸命頑張っていた。リハビリが終わって海香が病室に戻ってくると、俺はすぐに海香の元に駆け寄った。
「おつかれ。今日もリハビリしていたんだね。早く良くなってほしいけど、あまり無理しちゃ元も子もないからね」
「わかっているよ。けど、早く良くなって、君と一緒にいる時間を多く作りたいし、映画館や遊園地、海にも行って、たくさんの思い出を作りたい」
海香は嬉しそうに目をキラキラさせながら話した。海香は今まで、ずっと家での生活しかしておらず、外に出ることなど一度もなかった。それほど病弱な体をしていた。けど、俺と付き合うことになったからには、俺は海香を守り通さないといけない。そんなことは恋人になる以前からわかっていた。だけど、海香の方はおれと恋人になれたことがうれしいのかいつも以上に無茶している。
「あぁ~、早くデートしたいなぁ~。そう言えば志乃舞ちゃんと全然会っていないけどどうしているか知ってる?」
海香は知らなかった。あの俺たちにとって悪夢としか言えない事故の犯人があの志乃舞であることを。それも仕方がない。その時の海香は俺におぶられていたし、何より長時間外にいたから。幸運と言えば、海香が事故の犯人が志乃舞でなることを知らないことだ。もし海香が志乃舞の顔を見ていたら、心ん中の何かが壊れていたのかもしれない。俺はあの事故の後、志乃舞と言う好きという対象であった存在が一気に怒りに変わったことだ。
「う~~ん、引っ越ししてから、志乃舞とはずっと会ってないから分からない」
「そっか、早く志乃舞ちゃんに教えたいなぁ~。私の彼氏はこの人ですって。きっと驚くと思うよ」
「ああ、びっくりしてしまうかもしれないなぁ~、まさか付き合っているなんて思っていないから」
「あ~あ、どう反応するか楽しみだな~」
海香にはやはり志乃舞があの事故を起こしたなんて、言えるわけがない。あんなに楽しそうに喋っている海香に言ってしまえば、一気に奈落の底に叩き落とされたような絶望を感じるに違いない。だから、この怒りは俺一人が持って、志乃舞に復讐するしかないと。海香にまで悲しいことを持たせる必要ないと。
だが、最近その復讐の心が薄れてきているような気がする。今この海香と恋人になれて、こんな生活を続けることができれば、どんなに楽しいことであるか。無理に志乃舞の復讐のことばかり考えて、自分が自分で無くなっていくよりはいいじゃないかと。そう考えると、俺は志乃舞に復讐して、人生を棒に振るうよりかは海香と楽しい生活をする方が断然いいに決まっている。これを機にもう復讐のことを忘れようとした瞬間海香が話しかけてきた。
「どうしたの?なんか考えごと?」
「いいやなんでもないよ」
笑いながら答える。絶対に海香に気付かれないように誤魔化した。そうでもしないと海香に感づかれる可能性が出てくるかもしれない。
「そうやってすぐに私に教えないつもりなんだ。もういいよ」
「そう言うなって。ホントになんでもないことだから」
「けどね、人にはたくさんの悩みはあるんだよ。それは忘れようとしてもなかなか忘れることができない。ただ、脳の隅っこの方に追いやられて、何かのきっかけですぐに出てくるようにスタンバイしているのだよ。だから、今悩みを抱えている君がとても悲しそうに見える。私はそんな君を見たくないな」
確かに今まで海香にも不幸にした志乃舞の復讐に集中していた。そんなにつらい顔を見せずに振舞っていたがやはり海香にはお見通しってことか、俺が復讐のことを考えているのは海香はまだ分かっていないが、たぶん海香の考えは、あの事故の事で後悔しているのではないかと思っているだろう。けど海香の言葉で分かったことが一つある。悩みは忘れても何かのきっかけですぐに出てくるということだ。今俺が志乃舞の復讐をきれいに忘れても、いずれそのことが心を蝕み、人格が変わってしまうのではと。それなら、その悩みを解決すればいいのではないかと。志乃舞があんな行為をするなんて、冷静に考えたらするわけがない。何か理由があるはずではないかと。そして志乃舞を更生させる。それが俺の志乃舞に対する復讐ではないかと考えた。
「海香、俺、今抱えている悩みを解決しに行く。少しの間いないけど我慢してくれる?」
「やっぱりあったんだ。いいよ。私はいつでも待っている」
俺は志乃舞を更生させる。これが俺の復讐と心に植え付け、病室を後にした。




