ある図書館での、
生徒も、教師も誰も足を踏み入れようとしない旧校舎。
薄暗く長年使われておらず、危険という理由があるが、
一番の理由は、密かに伝えられている一つの噂。
それは、旧校舎の南側に位置する“第一図書室”に出る一つの影。
俗に言う幽霊といったものなのか、はたまた単なる気のせいなのか。
噂の真偽は誰も分からない。
だけど、得体の知れないものに近づく人はそうはいない。
人の足は少しずつ遠のいていき、
第一図書室の存在は次第に忘れ去られていった。
長年使われていない第一図書室は、カーテンが締め切られていた。
カーテンを通して、まだ昇っている太陽の光がわずかばかり入り込む。
使われないこの図書室では、明かりと呼べるものはそれしかなかったが、今、この図書室に、二つのスタンドが点き、そのすぐ傍に、少年と少女の二つの影があった。
二人は、互いに持っている本を捲る以外の動作を見せない。
本のページを捲る音のみが室内を支配する中、少女が口を開いた。
「小林君は知ってる? 第一図書室の噂」
「ええ、多少なりは」
「あら、そうなの? てっきり知らないものだと思っていたわ」
小林は本から目を離し、意外と物好きなのね、と笑う少女に目を向ける。
「それは貴女もでしょう、宮崎さん」
あまりいい噂を聞かないこの図書室に人が訪れることは滅多にない。
来るとしても、それは噂を聞いた肝試し気分の生徒か、よっぽど好奇心旺盛なのか。
だが、この少女と少年はそのどちらでもなかった。
ただ、ここにある本を読みたい。それだけだ。
好んで訪れる人などいない、この図書室に一人で来るなんて、度胸がある、と自分のことは棚にあげて思う。
宮崎自身もそう思ったのか、鈴を転がしたような声で軽やかに笑った。
「それもそうね。私も相当な物好きなのかもしれないわ。でも、仕方ないわ」
宮崎はぐるりと図書室の中をうっとりとした目で見渡す。
「最初に来た時はびっくりしたわ。恐ろしい噂があったから、どんな所なのかと思って来てみれば、こんなに素敵な場所だったもの」
忘れ去られてしまった第一図書室には、新校舎に移動されなかった多くの本が残されている。
中には、歴史的に貴重なものや、絶版となった本が多数ある。
そういった物は、小林や宮崎のような本好きにとって、非常に惹かれるものだった。
「でも、残念よね。こんな素敵な場所が噂のせいで敬遠されるなんて」
この図書室は、今この場にいる小林と宮崎しか利用しないため、いわばこの二人だけの貸切状態。
静かに、集中して読めるのには最適だが、本の宝庫のようなこの場所が噂のせいで大勢の人に素晴らしさが分かってもらえないのは、なんとも残念なことこの上ない。
「この図書室に現れる謎の影の話でしたよね」
「そう。小林君はどう思う? この話」
「どう思う、とは?」
「そのままの意味よ。この影への見解を聞かせてほしいの」
小林は宮崎からの唐突の質問に目を瞬かせる。
「そうですね。この影は見た人の気のせいだった、という話なら、それまでですが」
「・・・・・そういうことを聞いているわけじゃないのよ、小林君」
手で顔を覆う宮崎に小林はくすりと笑い、本へと目を落とす。
「分かってますよ。もし、噂の影が幽霊といった類なら――――僕は、ただの本の亡霊だと思います」
「亡霊?」
「ええ」
小林は、目を伏せ、本のページを捲る。
捲る音は、先程からこの部屋を支配していたが、何故かこの音はより一層大きな音となって聞こえた気がした。
「死後も本に執着し、まるで本を糧のように読み漁る、成仏できない可哀そうな幽霊。その子は、そういったものだと思いますよ」
「その子? それに、何だか、影のことを知っているような口振りね」
「気のせいですよ」
そう微笑む少年に、宮崎は一つの疑問を抱いた。
そういえば、この少年とはいつ出会ったのだろうか。
今、まるで古くから知る友のように話しているが、いつ知り合ったのかを思い出すことができない。
彼について分かることは、名前と、この図書室でいつも出会うこと。
「貴方、一体―――――」
宮崎が何かを言おうとした時、唐突に下校を知らせるチャイムが鳴った。
小林は本を閉じ、席を立ち、近くに置いてあった鞄を手に取った。
「もう時間ですね。それでは、先に失礼しますね、宮崎さん。貴女も早く帰った方がいいですよ」
「ちょっと待っ・・・・!」
宮崎はひらりと手を振り、足早に立ち去った小林を呼び止めようとしたが、小林の背は、すでに閉ざされた扉によってに見ることはできなかった。
第一図書室に現れる一つの影。
その正体は――――――――――――
ミステリアスの感じを出そうとして失敗orz
ただの意味が分からない小説になった感しかない。