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守護の魂  作者: 黒耀石
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第二想:改と制、束縛

そのまま、特に何事も無く家に帰れた秀一。

毎日こんな事が連続で続いたら、どれだけ楽しいだろうと思いながら、玄関を開ける。

「只今っ!」

靴を脱ぎ、それを無造作に投げ捨てる。

最高のハイテンションに達した秀一は、スキップでも交えそうな勢いで茶の間に向かった。

「あら秀一、こんな時間まで何やってたの?」

中に入ると、暖かい空気と共に、母の声が部屋の隅から飛んで来た。

こんな時間、と言われたので、時計を見て律儀に何時かを確認する。

「ちょ……まだ五時になったばっかだぜ?」

ドサッと鞄をソファーに投げながら、秀一は怪訝そうに言った。

夕方五時と言えば、良い子は家にお帰り。

と言われる、例の夕焼け小焼けな時間帯である。

しかし、秀一は今年で十七歳になり、なおかつ何処にでもいる様な普通の高校生。

そんな年齢の奴が、五時に帰宅オーライなんてする訳が無い。

「母さん……ちゃんと時計見てみろよ」

それを聞き、後ろに振り返って時刻を確認。

確かに、まだ五時を二、三分ほど過ぎていただけだった。

「あら!……まぁ」

「あらまぁ!って、最近はドラマでも聞かなくなったぞ?」

久し振りに聞いた普通のリアクションに、取り合えず突っ込みで返す。

「あとさ、どうしても言いたいんだけど……」

母が座っている方向を見ながら、秀一は思い切って口に出した。

帰った時から、正直ものすごく気になっていた事である。

「それ……何だ?」

「あら、もしかして、これの事?」

秀一の言葉を聞き、母は周りに散らばっているそれを持ち上げた。

材質はいまいち良く分からないが、それは灰色っぽくて長い棒。

 

――鉄パイプ?

 

一瞬、そんな考えが秀一の頭をかすめる。

しかも、母が持っているやつと似たような長さの棒が、何十本も床にごろごろしているから、もう意味が分からない。

「その、それは……もしや危ない物では?」

恐る恐る、秀一は母にこれが何なのか訪ねる。

「別に普通よ?財布の残金は危険だけどね。なんちゃって!」

「いや、笑えない」

と、特に面白く無い事を楽しそうに話す母。

同時に、秀一にはこれがどういった物なのか、その一言でかなり充分に理解出来た。

「はぁ……母さん、また通販で何か訳分かんない物買ったな?」

そう、母の趣味は、商品の衝動買い。

度々買っては、いつも無駄だと父親に言われ、業者に強制送還されている物品が沢山ある。

そして、今回のブツもどうやら過去の品物と同等の扱いを受ける事になりそうだった。

「良い?秀一、これは全国の専業主婦も絶賛、お家で簡単かつ短時間で出来る、組み立て式万能物干し竿・改!よ?」

と、側に置いてある組み立て途中の物体を指差しながら言う。

お世辞にも、まだ完成する様には見えない。

しかも、一体どこらへんが“改”なのかも分からない。

(短時間って、今何時か忘れる程長く作ってたのは母さんじゃ?)

と、こっそり心の中で考えてみたりする。

いくらキャッチコピーが魅力的でも、利用者の方が無器用な場合は意味が無かった。

まさに、業者殺しの主婦さながらである。

「しかも、これは洗濯物の用途別に分けて、簡単に竿を長くしたり短くしたり出来るの。家庭的な主婦には必需品だと思わない?」

「え、ええ……確かにそう思います」

少し引き気味で、秀一は母の熱血な説明っぷりに相槌を打つ。

これ以上聞くと、通販の魅力について延々語られそうだったので、回避策として自分の部屋へ行く事にした。

「あっ……そうだ!俺は今から二階の部屋で宿題やって来るよ」

「そう?まあ、頑張ってらっしゃい」

まるで、今思い出した様な絶妙な演技で、秀一はさりげ無く脱出する。

母はと言うと、まるで組み立てを無理矢理手伝わせようと企んでいる様な顔をしていた。

今回は、手伝いを避けられたのでラッキーだったと言える。

背中に感じた視線に耐えながら、秀一は茶の間を出て階段を上がった。

 

 電気を付けると、暗かった部屋は一瞬で明るさを取り戻した。

陽が暮れてすっかり暗くなった景色を眺め、カーテンを閉める。

「はぁ……全く、危ない所だったな。あれは」

小さな声で呟き、ベッドに座りながら思わず安堵の表情を浮かべる。

ふと時計を眺めると、時刻を示す針は既に五時半を差していた。

帰宅早々、母との駆け引きに三十分近くも時間を使ってしまったのかと思うと、不意に疲れが襲って来る。

「勘弁……って感じ」

そう小さく呟き、後ろに倒れる様にしてベッドへ横になる。

ぼーっと天井を眺めながら、秀一は今日の出来事を思い起こす。

(あー……何だ、まず学校出て、話を盗み聞きして、準と会って、危険を回避して……)

色々あって、上手く頭の中でまとめられない。

(で……後は……)

横になって考えているうちに、段々まぶたが重くなって来た。

多分、日々の疲れが出てきたのだろうと、自分なりに考える。

(んぅ……眠い)

ほぼ無意識の内に、枕を自分の頭の下に持って来て寝る準備をする。

そのまま、秀一はゆっくりと目を閉じた。

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