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カトレアは侯爵の言葉をぼんやりと考えながら、バルコニーから見える庭園を眺めていた。

空には星が見事に瞬いて昼間でも美しいであろう庭園が幻想めいて見える。


「今日会った方って・・・やはりクロキュス様?」


そう考えるのが妥当な気がしたカトレアはクロキュスを思い出す。

財務大臣の息子で王の侍従である彼は、上に兄がいるそうだからプリュダント家に婿入りしても支障はない。

むしろ爵位がそれほど上位ではないルワイヨテ家にしても良い縁組といえる。

いくら幼い頃に会ったことがあるとはいえ、好意的すぎるのはそのせいではないのだろうか。

クロキュスの人柄なのかもしれないが、常にあれでは貴族社会の嗜みであっても接した女性は勘違いしてしまいそうになる。

言い方は悪いが胡麻を擂っていたとする方がカトレアとしては納得する。


「でもいい旦那様になりそうよね。あとは・・・もしかしてウイエ?」


今日会った人といえば幼馴染ウイエもいる。

久しぶりに会ったのも実は侯爵が意図してのものだとしたら・・・?

しかしウイエでは些か頼りない気がするし、果たして侯爵が女性関係ではいい噂を聞かない彼にカトレアを託そうとするだろうか。


「ないわね。うん、ない。」


ばっさりと切り捨てて他に誰かいないものかと考える。

あまりにも抽象的すぎて、それなら今夜の夜会に出席している男性陣が皆そうともとれる。

とはいっても会話を交わしたのはコルヌイエと数に入れてもいいのかわからないが王ぐらいだ。


「コルヌイエは・・・公爵家の跡取りだから婿入りを頼むことは出来ないし。」


小さい頃は初恋の君であるコルヌイエのお嫁さんになることを密かに夢見ていた時期もあったが、分別がつくようになってからはそう思わなくなった。

メンシャス家には次男のマルグリットもいるが、彼には悪いがコルヌイエには及ばないため、わざわざ優秀な跡継ぎを手放す事はしないだろう。


「もしかして私を公爵家に?」


そういう考えもやはりあるのかもしれない。

侯爵はカトレアとコルヌイエが仲の良いとても穏やかな関係を築いていることも知っている。

家の事は二の次として娘の事を考えているのならあり得る。

この場合も家同士も悪い話では決してない。

プリュダント家の方はどこか遠縁でもいいから相応しい跡継ぎを据えればいいだけの話であるのだから。

しかしあの恐ろしい姑・小姑がいるとなるとぞっとしてしまうのは確かだ。


「というか、あの人たちがいたらコルヌイエにはお嫁さんが来ない気がする・・・。」


そして最後に思い浮かべるのは今日初めて拝謁した若き国王陛下。

容姿はコルヌイエと全く違うが、優しい穏やかな声からするともしかして内面は似ているのかもしれない。


「もし王だとしたら、お父様はとんだ食わせ者ね。」


だが全くないとは言い切れないのがなんともいえない。

国の事を思えば侯爵もやぶさかないだろう。


カトレアの後ろでは、眩い光の中貴族たちが外見上楽しそうに歓談している。

それを薄ら寒く思いながら再び庭園に目を向けると、きらりと光る何かを見つけた。

目を凝らして見ると池であった。


「・・・例の池(・・・)かしら・・・。」


覚えていないとはいえ少し興味が引かれたカトレアはこっそりと庭園の方に行ってみることにした。






1人の男がクリザンテームに密かに耳打ちすると、軽く頷いて席を立った。


「あら、陛下どちらへ?」

「すみません母上、少し席を外します。クロキュスはここに残っていろ。」

「そういう訳には参りません。」


母である皇太后に断り、クロキュスに残るよう命じるが彼は素直にはいとは言わなかった。

この後の事を考えるとクロキュスがいない方がいいとは思うが、仕方がないと諦め同行を許す。

貴族たちは王が席を外すとなってざわついていたが、すばらくすれば戻るとあってすぐに大人しくなった。


長い廊下を護衛を引き連れて歩いていくクリザンテームはいつになくピリピリしている。

そんな様子に違和感を覚えクロキュスは王にそっと尋ねる。


「せっかくの夜会なのに一体どちらにいらっしゃるのですか?」

「・・・庭園だ。」

「庭園?」

「黙って付いて来い。」


思ってみなかった場所にクロキュスは訝しむ。

そう言ったクリザンテームの顔は少し緊張していた。

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