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王宮に着くと、侯爵は迷いなく目的地へと歩みを進める。

一応案内人がいたので、カトレアは見苦しくない程度に周りの様子を観察しながら付いて行った。

外装も豪華に思えたが、内装も白を基調とし金の装飾が施されていてとても豪華だ。

金が使われているのに全く下品ではなく、柱の一本一本にも細やかな装飾はそれは素晴らしいものだ。

カトレアは普段派手な物は好まないが、滅多に見ないであろう豪華さにしばしうっとりした。



ある扉の前に着くと、案内人は扉をノックし侯爵が来たことを告げる。


「どうぞお入り下さい。」


中から聞こえた声は、涼しげでよく通る男性のもの。

部屋の中へ招かれると、案内人は静かに礼をして出て行ってしまった。


「待たせたかな。」

「いいえ、時間より少し早いくらいです。お待ちしておりました。ちょうどお茶の用意もできてタイミングがよかったですよ。」


侯爵と親しげに話すのはまだ年若い20代半ばの青年だった。

カトレアに気づくと嬉しそうに微笑んだ。


「これはこれはお美しくなって・・・。ようやく再会できましたね。」

「え?・・・失礼ですがどこかでお会いしたでしょうか?」


カトレアと同じ長い黒髪をひとつにくくり前にたらしている優しい面立ちの青年。

ぱっとした華やかさはないが、全体的に整っていて好印象を与える。

だがカトレアには全く覚えがない。

困惑していると、侯爵が苦笑しながら紹介してくれる。


「覚えていないのも無理はないよ。彼はクロキュス・ルワイヨテ殿。財務大臣のご子息で、王の侍従をされている。クロキュス殿、知っての通り私の娘カトレアだ。」

「改めまして、クロキュス・ルワイヨテと申します。」

「まあ、財務大臣の・・・。失礼いたしました、ルワイヨテ様。カトレアでございます。」

「ふふ、どうぞクロキュスと。私もカトレア嬢とお呼びしても?」

「は、はぁ。」

「お前は一度彼にこの王宮で会っているんだよ。」

「え?」


やけに親しげなクロキュスにさらに困惑するカトレア。

そんな彼女に侯爵は事実を告げる。


「幼いお前を連れて一度だけ王宮に来たことがあった。その時にはすでにクロキュス殿は王の、当時は王太子の側にいてね。カトレアは彼に遊んでもらったんだよ?」

「えぇ?・・・全く記憶にありません・・・。なんといいますか、この王宮に来た覚えもありませんもの。」

「よほどショックだったんでしょうね。本当に申し訳ないことです。」

「いやいや、この子がお転婆すぎたんだよ。君は悪くないさ。」


カトレアの発言を受けて悲しげな顔をするクロキュスにそれをフォローする侯爵。

カトレアはますます訳がわからない。

しかも自分のお転婆が原因と言われなんだか面白くない。


「あの・・・?」

「ああ、すみません。何のことかさっぱりわかりませんよね。貴女は私が目を離した隙に池で溺れてしまったんです。」

「・・・溺れて?」

「大変だったんだよ?いなくなったと報告を受けたかと思ったら今度は池で溺れているというし。皆大慌てだ。」

「・・・。」

「それなのに当の本人は目が覚めるとけろっと何もかも忘れている。まあ余程怖かったんだろうがね。」

「かえって何も覚えていない方がよかったのでしょうね。私としては少し寂しく思いますが。」

「・・・大変ご迷惑をおかけしたようで・・・申し訳ございません。」


カトレアはすっかり居た堪れなくなり、俯いて耳まで真っ赤になってしまっている。

その様子を見て侯爵はくすくす笑い、クロキュスは微笑ましそうにしている。

カトレアは気持ちを落ちつけようと出された紅茶を飲んだ。


「気になさらないで下さい。むしろ私が気になっていたのですから。最近(・・)貴女の名前を耳にすることがありまして、つい侯爵にお伺いしてしまったんです。ならばとこのような場を設けて下さって。」

「そうだったのですか。」


最近という言葉にぴくりと反応したが、気づかぬふりをした。

だが侯爵の発言でそれも台無しになってしまう。


「それに彼は王の侍従だ。これから何かと世話になるかもしれないからね。」

「・・・お父様。」


カトレアが少し引き攣った顔を侯爵に向けると、それを見たクロキュスが噴出した。

はっとして笑顔に戻したが、すでに遅かったようだ。

クロキュスはまだ笑っている。

どうも最近この手の話題には冷静でいられなくなりすぐに顔に出てしまうカトレアは頬を赤く染めた。

眉間に皺を寄せるよりましかもしれないが、どちらにしろあるまじきことだと胸中反省する。


「これは失礼しました。」

「いいえ。こちらこそお見苦しいものをお見せしてしまって申し訳ございません。」

「そんなことはありません。素直で可愛らしい方だと思ったものですから。」

「まあ。お上手ですわね。」


クロキュスにさらっと言われたが、カトレアはスルーした。

彼も好青年とはいえさすがに貴族であり、リップサービスも難なくこなしてくれる。

いちいち真に受けていたらどうしようもないと微笑んでみせた。

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