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「お嬢様、お綺麗です。」


イポメがそう言うと、他の侍女たちも満足そうに各々声を掛けてくる。


カトレアは鏡に映った自分の姿を忌々しく見た。

普段薄化粧の顔には、しっかりと化粧が施されていた。

垂れ目気味の大きな目はラインによってより強調され、目元の黒子も際立っている。

少し厚めの唇には軽くグロスが塗られているだけだが、十分美味しそう(・・・・・)に見える。

パンジー色の華美すぎない上品なドレスに、きらりと光る小粒のアクセサリーたち。

綺麗に結い上げられた黒髪はいつも以上に美しく光沢を放っている。

白く細いうなじには少し後れ毛がかかり、なんとも艶かしい。

そこには慎ましやかな貴婦人がいた。


今夜はついに例の夜会だ。

そのための装いなのだが、どうも気が重い。

着飾る事は嫌いではなく、むしろ好きだ。

気持ちが華やかになるし、自分の成長を周囲に見せることができて嬉しい。

嬉しいが・・・今夜は別だ。

なるべく目立たぬよう、化粧やドレス・アクセサリーは落ち着いたものだ。

きっと他の令嬢たちに比べると地味であろう。

その令嬢たちの姿を思い浮かべてげんなりする。

いつもなにかと目の敵にしてくるとある人物の高笑いが聞こえてくるようだ。

願わくば、絡まれませんように・・・。

そんなカトレアの願いはもちろん儚く散ることになるのだが。




ここにも一人、憂鬱な気分の者がいた。

今夜の主役、クリザンテームその人である。

朝からため息が止まらない。

今も吐いたところを侍従であるクロキュスに見咎められたばかりだ。


「いい加減観念なさって下さい。」

「そうは言っても気が進まない。」

「今まで誰も娶っていなかったことがおかしいのですよ。」

「・・・・・・。」


確かにそうだ。

23にもなって誰一人娶っていない。

王太子時代から頑なに拒んでいた。

父がいた頃は辛うじて許されていた我儘だったが、今となってはもう無理なようだ。

わかっているがそれでも悪あがきしてしまう。


「跡継ぎならばプリムヴェールがいる。あれには側室がいるし、子ができればそれを私の養子にしてもいい。」

「プリムヴェール様は歴とした王の弟君であらせられますが、貴方様が王妃を娶り子を成せばすむことですよ。」

「・・・それはできない。」

「できますよ。王妃が一人もいないなど外聞も良くない。そろそろ国のことも考えていただかないと困ります。」

「・・・・・・。」

「クリザンテーム様?」


項垂れた王を見て情けなく思う。

これに関してだけはどうにも困ったものだ。

常日頃から側近たちがそれとなく話を出すが、全く聞く耳を持たない。

故に今夜の夜会という強行手段に出たのだ。

まだ王にどのご令嬢が良いかと選択権があるだけましだと思って頂きたい。


「まただんまりですか、仕方ないお方ですね。貴方様はこの国の王なのですよ。・・・早くお忘れください、レジオンの娘など。」

「などと言うな。私にとっては大事な娘だ。」

「・・・それでは忘れなくとも結構です。」

「クロキュス・・・。」


大きく息を吐いたかと思うと、今までの厳しい声から一転優しい声色に、クリザンテームはぱっと顔を上げて縋るようにクロキュスを見る。

クロキュスは彼に優しく微笑むが、然うは問屋がおろさなかった。


「ぜひとも王の胸の奥に大事に大事にしまって、そのままずっーと出さないで下さい。このままでは妨げになるばかりか、王妃になる方にも失礼ですからね。」

「クロキュス!」

「さ、今夜はどんなご令嬢方がいらっしゃるのか楽しみですね。そうそう、プリュダント侯爵のお嬢さんもいらっしゃるとか。」


クロキュスを睨んでいたクリザンテームは、プリュダント侯爵という人物名に反応した。


「プリュダント侯爵の娘も来るのか?珍しいことだ。」

「はい。侯爵が余程大事にされているのか、公の場にはめったに姿を見せませんからね。私も実は大変楽しみにしているのですよ、カトレア嬢にお会いするのを。」

「お前も?それも珍しいことだ。・・・まぁ、侯爵の娘というのは興味がわかないでもないが。」

「そうでしょうとも。大変お美しく聡明でいらっしゃると評判の方です。」

「ほう、さすがはあれの娘といったところか。」


それとなく王妃候補の筆頭であるカトレアを話題に出す。

なんだかんだで興味を覚えたようだ。

これなら夜会でも少しは動きがあるかもしれないと、内心複雑な思いを抱きつつ、ほくそ笑む侍従であった。

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