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クロキュスのにこやかな笑顔には無言の圧力があった。

クリザンテームが言うには、密かに協力してくれる者を探し細々と想い人の情報を集めているということだ。

それを語るクリザンテームはちらちらとクロキュスを気にしながらどことなく弱気である。

まるでいたずらが見つかった親の顔色をうかがう子どものようで、カトレアは思わず笑ってしまいそうになるがどうにか堪える。

目が笑ってしまうのはどうにもならなかったのだが、運悪くクリザンテームと目が合うと彼はそのことに気付き、ここぞとばかりにカトレアに話をふってきた。


「ご令嬢には話を聞かれてしまったが・・・さて、どうしたものか。」


そう、すでにカトレアは知りません・聞いていませんとは言えない状況だった。

最早クロキュスに説明する時にもカトレアに隠そうとしないクリザンテームに、正直焦ってこの場から立ち去ろうとしたのだが、構わないから君も聞くようにと言われてしまったのだった。

それなのに今更どうしたものかとはなんだとカトレアの方が聞きたい。

しかしどう考えても巻き込まれることは避けられそうになかった。


「陛下、少しお待ち下さい。」


男がクリザンテームの発言を止めさせる。

残りの3人は何事かと男に視線を向けるが、男はある方向を向いていた。

つられて皆がそちらに向くと、遠くから人の話し声がだんだんとこちらに近づいてくるのがわかる。

その中に甲高い女の声が混ざっているのを聞いて、カトレアはまたしても嫌な予感がする。

違う道から逃れようかと一歩後ろに下がろうとすると、誰かがカトレアの腕を掴んだ。

ぎょっとしてその腕の先を見るとクリザンテームである。

近づく声に掴まれた腕を外そうと片手を添えるがこちらのことなど歯牙にもかけない。

助けを求めてクロキュスを見るが、彼も困った顔をするだけで手助けはしてくれなかった。

そうこうするうちに声の主が辿り着く。

カトレアはがっくりと項垂れた。

3・2・1―――


「陛下!!」


飛び出てきたのは女はクリザンテームに駆け寄ろうとしたが、彼の側にカトレアがいることに気付き足を止める。


「・・・カトレア?貴女がなぜここに?」


華やいだ声から一転不快そうに低いそれを出したのは思っていた通りの人物―――オルタンシアだった。

カトレアはのろのろと顔を上げたが、すぐに視線をそらした。

見てはいけないものを見てしまったような気がして。

そんな態度が気に喰わなかったのだろう、距離をつめてカトレアに問いただそうとするがそれは叶わなかった。


「君の方こそどうしてここにいる?」


男とクロキュスに阻まれただけではなくクリザンテームにそう問われたからだ。

しかもクリザンテームはカトレアを自分の背後にやり、オルタンシアから庇う様子を見せた。

カトレアはやめてくれと叫びたい気持であったが、ここは黙って事が過ぎるのを待つしかないと大人しく様子見だ。

オルタンシアは非常に気にくわなさそうな顔をしたが、クリザンテームに話しかけられたことが嬉しかったのか瞬時にうっとりと彼へ視線を投げかけ答える。


「私、どうしても陛下が気になってしまいまして・・・。」

「後をつけてきたのか。あまり褒められた行動ではないな。」


鋭いクリザンテームの声にうろたえるが、縋る様な目を彼に向ける。


「それについては謝りますわ。でもどうしても陛下と2人きりでお話がしたいと思ったのです。どうかそのように怒らないで下さいませ。」


媚びるように甘えた声を出すオルタンシアにカトレアは勇気がある人だと感心する。

クリザンテームの背に隠れているため見えないが、顔も似たようなものなのだろう。

カトレアにはどうあっても出来ない芸当だ。

それに返すクリザンテームの声は冷ややかというよりすでに呆れていた。


「もうよいから大広間に戻るがいい。」

「・・・わかりましたわ。ではそれでしたらカトレアさんも一緒に。ねぇ、カトレアさん?」


嫌だ。

しかしカトレアは考えた。

この場を離れ、オルタンシアに攻撃されながら会場に戻るべきか。

着いてからもさらに攻撃者が増えてよりねちねちしたものになるであろう。

はたまたオルタンシアの誘いを断り、この場にクリザンテーム達と一緒に残るべきか。

知りたくない話をさらに聞かされてしまいそうだ。

・・・どちらも嫌だ。

最終的には両者とも避けられない。

それならば放って置くとよりこじれそうなオルタンシアをさっさと済ませた方がいいだろうとカトレアは彼女に従おうとした。

だがクリザンテームは自分の背から姿を出したカトレアを逃がさんとばかりに再び腕を掴む。

カトレアがクリザンテームを見ると彼もカトレアを見ていた。

実際は2人の間に小さな攻防があったのだが、図らずしも2人はしばし見つめあう形となり、オルタンシアは悲鳴を上げる。

その声に驚いて彼女を見ると、オルタンシアは顔を引き攣らせながらわなわなと口を開く。


「ま、まさか・・・カトレアは陛下と!?」


何を言いだすのかとカトレアはとっさに否定しようとしたが、クリザンテームが予想外の行動に出た。

カトレアの肩を抱き寄せたのだ。

突然のことに対処が出来ずカトレアはそのままクリザンテームの胸元にぽすんと収まる。


「あ。・・・え?」


クリザンテームの見た目に反する胸の逞しさにかっと顔が赤くなったのは一瞬のこと。

カトレアはさーっと血の気が引く感じがして慌てて離れようとするが、クリザンテームは離そうとはしなかった。

冗談ではないとカトレアは声を上げる。


「陛下、お放し下さい!」

「・・・。」

「陛下っ!!」


ようやく解放され、オルタンシアに釈明をしようと向き直るがすでにそこに彼女はいなかった。

呼びかけようと出したオルタンシアの名が虚しく響き、遠くで誰かが彼女の名を呼んでいるのが聞こえた。


「誤解されたな。」


顔を真っ青にさせたカトレアはクリザンテームが他人事のように言うのを聞いて、今すぐ帰りたいと切実に願った。

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