『あぁ? 雄ゴリラだぁ? てめぇ、女の子を何だと思ってんのよっ!』
動物園の飼育展示場の前。
目の前にはゴリラの雄。
気にいらない相手には、う〇こを投げるらしい。
やれるもんなら、やってみなさいよ。
あたしは、ゴリラにガンを飛ばす。
あれ?
なんか、意識が……
~ ・ ~
気が付くと、円形の石造りの広間に。
地面は薄い砂地。なんかゴロゴロと転がってるのは、骨とか金属片に見える。
ここ、どこ?
周囲を見渡すと、大きなすり鉢状の建物の、ちょうど底の広間に、あたしがいるわけね?
で、上からぐるっと、観客席がしつらえていて、満員御礼らしい。
観客の服装は、昔のヨーロッパ風の、布に穴を開けて手足を通しただけの、いい加減な造りのお洋服とか、帯状の布を身体にグルグル巻いて、これこそがお洋服ですよ、みたいなのとか。
野蛮な、原始的な格好の連中しかいない。
あたしの、このなんて可愛いらしいセーラーな制服を見てごらんなさいよ。
なーんて、こんな野蛮人どもに、あたしの可愛らしさは伝わらないわね。
で、なんでこうなった?
なんか、正面の厳重な扉が開いたね。
出てきたのは、雄ゴリラ。
体長230センチ。体重は推定で150キロ。
意外にハンサムなお顔の下に、マッチョな大胸筋がこんにちは、している。
そいつを両手でバンバン叩いて、ドラミング。
オレは強いんだぞーとアピール。
あ、そう。ハイハイ。
本当に強い奴は、そういう事はしない。
黙って近づいて、本当なら忍んで近づいて、いきなりズドン。
それが楽。それが簡単。だって、優劣というか、狩りだもん。
というわけで。
ゴリちゃんにお近づきになって。
にっこり笑って。
お、ゴリ、なんだ? というお顔ね。
こんな可愛い女子高生に見つめられて、嬉しいでしょ?
そのままノーモーションでボディブローを叩き込む。
あたしの拳が、ヤツのムキムキな腹筋にモロにめり込んだ。
な、なぜ?
そんなお顔ね、ゴリちゃん。
ハン、偉そうにドラミングってか?
てめぇ、ゴリラの分際であたしに逆らうだぁ?
そんなもん、問答無用でぶちのめすに決まってんだろうがっ!
175センチ、85キロのあたしが、推定150キロの雄ゴリラの、悶絶して下がって来た頭を、首ごと抱え込む。
手は、腕は、ヤツの首回りを的確にがっちりと掴んでいる。
「そぉおおおらぁ!」
そのまま、ゴリちゃんを逆さまに抱え込んで、持ち上げてやった。
なんか喚いてるけど、あたし、ゴリラ語は知らないんだわ。
手足をバタバタさせてるけど、放してなんかやらないんだわ。
コイツ、丈夫そうだし、本気でもいいんだよね?
まあ、死んでも、どうせ野生動物だし、どうでもいいや。
あ、ワシントン条約に引っ掛かるのかも?
まあいいや、緊急避難という事で。
ゴリちゃんを逆さまに掴んだまま、軽くジャンプして、あたしの体重を加えてあげる。
そのままゴリちゃんの頭ごと、尻もちをつくように地面に叩きつけた。
垂直落下式ブレーンバスター。
うん、ゴリちゃんの頭、キレイに地面にめり込んだね。
「レフェリー、カウント!」
周囲を見たけど、そんな奴はいない。
しょうがないので、あたしが自分でカウントを取る。
「ワン、ツー、スリー! カンカンカン! あたしの勝ちねっ!」
両手を上げて勝利のポーズを取ったけど。
観客が、シーンと静まり返っている。
どうやら、ご期待に沿えなかったらしい。
しょうがないなぁ。
まあ、どうでもいいや。
胸に手を当てて、念じると。
身体の中から、青い宝石が組み込まれたペンダントが現れた。
すごく、光ってる。
やがて光が収束し、帯となって、ゴリちゃんが出てきた入口を指し示した。
そこにいるのね?
ズカズカと歩いていくと、管理者らしい衛兵がゾロゾロと出てきた。
「邪魔するなら、アレと同じにするけど?」
ゴリちゃんを指で示すと、全員、おとなしくなった。
あ、一人だけ、なんか言って近づいて来た。
隊長さんかな?
ウルサイんで蹴り飛ばしたら、どっかに吹っ飛んでいった。
どうやら、バカらしい。ゴリラと同じだね。
重そうな扉が閉ざされたので、蹴っ飛ばしてぶっ壊した。
出てきた連中に睨みを利かせたら、すぐに大人しくなった。
軽くスロープを下っていくと、いくつかの頑丈そうな牢屋があった。
多分、あのゴリちゃんもそこから出されたんだと思う。
で、その奥に。
青いドレスを着て、キレイな金髪を複雑に結い上げた、若い女性の姿があった。
「ミレーナ、久しぶり」
「来てくださると、信じておりました」
手荒なことは、されていないみたい。
そういう事があれば、直接、あたしがその場に召喚されるだろうしね。
まあ、公爵令嬢をこんな牢屋に閉じ込める時点で、充分に手荒な扱いだけどね。
「牢屋のカギって、誰が持ってんの?」
「うーん、分かりません」
あ、そう。
両手で牢屋の格子を掴んで、全身を捻る感じでぶん回すと、大きな音を立てて引き千切れていった。
「す、す、すごいですね」
「そう?」
こんな原始的な野蛮人どもが造り出す金属なんて、その程度のもんよ?
ま、口には出さないけど。
「で、今回は、なんなの?」
トラブルメーカー、ミレーナ。
最初の事件の時に彼女から預けられた、青い宝石。
持ち主がピンチの時に、必ず守護する、青い宝石。
んなもんを持たされたせいで、あたし、ちょくちょく異世界に召喚されちゃってる。
そんだけ。そんだけよ。
「で、どうしたらいい?」
「外交を務めていたわたくしを突然に拉致して、こんな所に連れてきた責任を取らせれば宜しいかと存じますわ」
なるほど。
「その連中は、まだこの辺にいるの?」
「目端が利くなら、すぐに脱出していると思いますけど」
なるほど、そんなセンスは無いんだね。
その辺で怯えている衛兵の首根っこを掴んで、案内させる。
命は惜しいらしい。素直に案内してくれた。うん、賢いじゃん。
(多分)闘技場の上の方、貴賓席まで、首根っこを捕まえた衛兵に案内された。
何人か、警備の兵隊はいたけど、誰も止めようとはしなかった。みんな命は惜しいらしい。賢いね。
でもさすがに、貴賓席の扉を守る近衛兵は、そういう訳にはいかないらしい。
うん、バカだね。
案内役の男を捨てたその手で、一撃、二撃。はい、おしまい。
どこに目を付けてるんだろうね。誰を相手にしてるのか、全く分かってないんだね。
さっきのゴリラと、中身は同じなんだね。
大層な扉を蹴っ飛ばして、ぶっ壊して。
「な、なにごとだ!」
中にいた、偉そうな男どもをひと睨み。
「此度のスクーツ家への暴虐、どのようなおつもりなのでしょうか?」
凛とした顔で、ミレーナが男たちを一喝する。
「な、なぜ、生きて……」
誰かが、そう呟いたけど。
意味が、分からん。
「そなたの聖獣は、我々の聖獣に敗れ去ったのではないのか?」
何を言ってんだ?
「わたくしの聖獣は、このイクミです。彼女が、あなたがたの召喚した“ゴリラ”を打ち破ったのではなくて?」
ん?
あたしと、雄ゴリラを、取り違えたの?
あたしのどこが、ゴリラに見えるのよ!
ま、まあ、確かに、肌は浅黒いし、毛は濃いし、顔つきも濃いとは思う。
で、でもさぁ、可憐なセーラー服現役女子高生なんだよ、あたし。
どこをどうやったら、そんなもん、取り違えられるのよぉ!
男たちは、ま、まさか、という顔で、あたしを見る。
そんなに、そんなにあたしがゴリラに見えるっていうのぉ!
「ともかく、聖獣同士の聖戦で、わたくしのイクミが勝利したのですから、聖約は守って頂きますわよ」
「う、うむ……」
~ ・ ~
外交上は、勝ち目がなかった彼ら。
無理にミレーナを拉致して、聖獣同士の聖戦に持ち込んで、一発逆転を目指したらしい。
闘技場を使ったのも、観客を満員御礼にしたのも、全て必勝を期するためだったらしい。
なんか、その、バカだねぇ。ゴリラと同じだね。
で、彼らはミレーナと雄ゴリラを隣同士の牢屋に入れて、雄ゴリラに求婚させていたというか、ミレーナが求婚されてたんだってさ。なんだそれ?
ああ、それであたしが召喚された時、あの雄ゴリラ、張り切ってドラミングしてたのね?
ライバル登場ってか。ザコのクセに。
「今回も、わたくしを危機から救ってくださって、本当にありがとう」
彼女の屋敷で歓待された、その夜のこと。
とても怖かったので、今回も一緒に寝てほしいと言われて。
寝巻姿のミレーナが抱きついてくる。
まあ、確かにお貴族様のお嬢様には、ちょっと刺激が強すぎる経験だったかもね。
適当にあやしてやると、あたしの大きな胸の谷間に、彼女が頭をうずめてくる。
「大きい……温かくて、柔らかい……」
まあね。あたしのおっぱい、半分は大胸筋だからね。どうしても大きくなっちゃうんだわ。
ミレーナったら、あたしのおっぱいがすっかり気に入ったみたいね。顔をスリスリしてくるわ。
しょうがないなぁ。
幼児をあやすように、頭をなぜて、背中をさすってあげてたら、すっかり満足したらしい。深い寝息を立ててるね。
さ、あたしも寝るか……
~ ・ ~
ベチャ!
顔になんか付いた感触で、目が覚めた。
動物園。ゴリラの飼育展示場の前。
あたしの顔に、う〇こを命中させて、ご満悦な雄ゴリラ。
「ごぉおらぁあああ!」
あたしは、柵を乗り越え、堀を跳び越えて、ゴリラのいる飼育棟の中に殴り込んでいった。
飼育員さんに、こってりと叱られた。くそぉ。
(おわり)




