異星動乱
〈冬の雷秋に鳴らうが構はずや 涙次〉
【ⅰ】
前回のPSからの續き。
安保卓馬は石田玉道の星は「樂圜のやうだつた」と云つてゐた。眞實はだうか。石田曰く、「彼は私の星では『異星の客』でしたからね」-カンテラ「と申しますと?」-「實際には、我が星は現在、動乱期に当たります」-「革命でも起きてゐるのですか」-「さうですね。この地球ではさう云ふのでせうが。ちと内容が違ふ」
【ⅱ】
それから、石田の長い獨白。
我が星で、私の種族はシャアムと呼ばれています。と云ふか自稱してゐる譯ですが、この種族は全體で300人ほどしかをりません。謂はゞ「貴族」です。私のやうに異星に行つたり、客人を招いたり出來るのはシャアムの者だけです。かと云つてシャアムは政治、と云ふ物も知りません。さう云つた俗事、政治や醫療などに携はる事はイステ・コラと云ふ一種のAIが全てやつてくれるので。シャアムはフラーイと云ふ花の香りばかり嗅いでをります。これは地球で云ふコケインの如き作用を齎します。氣分がすつきりし、陽氣で外交的になる。
【ⅲ】
そして藝術。そんな事ばかりなんです、シャアムの一族は。私逹は地球に來て医療関係の仕事をしてをりますが、正直私逹の優秀な頭脳を以てすれば、地球レヴェルの医療知識を修めるのは容易い。每年、イステ・コラに選ばれた者が異星に派遣されるのですが、私どものこんな文明が確立されたのは、さうですねえ、地球の尺度で云つて今から千年ほど前でせうか。あの* 時空の捻ぢれを用いた移動装置を造つた、或ひは、これが今叛乱を起こしてゐるのですが、イステ(ロボット)族を造つたのも、約千年前のご先祖なのです。
* 当該シリーズ第116話參照。
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〈きりぎりす籠の中なる半生は今日で途切れて秋暮れるかも 平手みき〉
【ⅳ】
そして、フラーイの花の栽培をしてゐるのが、フラーイ・アテ。私どもの使用人です。今回、イステの者らが叛乱を起こし、貴方がたにヘルプを求めてゐる譯なのですが、彼らの要求は、一向にはきとしない。勞働からの解放? 一體彼らに、他の何が出來るのでせうか。
カンテラ「ヘルプ、と申されましたね?」-石田「はい。一國の軍隊に出動要請したのでは、私逹の存在がバレてしまふ。で、カンテラ一味をイステ・コラは指名して來た譯だと思ひます。やつてくれますか? お禮は例のダイアモンド。採り放題です」
【ⅴ】
カンテラ、瞬時に決断した。じろさんを呼び、「これから石田先生の星に行くよ」-じろさん、「大ごとだな。相手は?」-「ロボットだ。テオも連れて行く。なるだけ少人數で濟ましたいんだ」-「分かつた。準備は?」-「特にないよ。身一つでいゝ」。で、その3名、石田の書齋から、石田の星への「拔け道」を使つて旅立つた。
【ⅵ】
イステの棲み家は地下だつた(叛乱と云ふのは、勞働からのボイコットであつた)。地上は300人しかゐないと云ふシャアムの占有地になつてゐた。妖しい雲が取り卷き、シャアムでなくとも、フラーイ拔きではゐられなさゝうな陰氣な氣候の星である。決して「樂圜」の喩へは当て嵌らない。卓馬もフラーイに酔つてゐたのか。
Turbo!! Charged by 白虎 influence!! カンテラは白虎と合力した。「行くぜ、相手は首謀者だけだ!!」-もしも全體を滅茶苦茶にしたのでは、シャアムの生活形態に深刻な打撃を與へ兼ねない。
【ⅶ】
だうやらイステの作業場の中央に聳へ立つ、タワー狀の建て物に、敵さんはゐさうだつた。一同、階段を駆け昇り、最上階まで行く。一人の老人がゐた。「あんたか。イステの首魁は」テレパシーを使つて、テオが語り掛けた。「さうだ。そして私逹は、貴方がたのやうな勇者の到來を待ち受けてゐた。カンテラどのとそのお仲間よ」-テオ「このタワーを壊せば、今回の叛乱は収まるのか?」-老人「まあさう云ふ事だ。だがそれには及ばぬ。私逹の負けだ」
これには3名、拍子拔けした。「私逹は理解者が慾しかつたゞけだ」-カンテラ「まあ、千年間苦勞様。とだけは云つて置く」(テオが通譯)-「その言葉で充分報はれた」-老人は自爆した。今回の事の責任を一身に引き受けて。
【ⅷ】
たつたあの一言だけで... イステと云ふ存在の割り切れなさが、カンテラには分かつたやうな氣がした。或ひはイステには戰闘の仕方が分からなかつたのやも知れぬ。
その日から、石田の星は旧に復し、シャアムはフラーイの花の匂ひを嗅ぎ、フラーイ・アテはその栽培をし、イステは俗事一般を片付ける- 長く保たれて來たのだから、秩序は秩序なのだ。だが、カンテラにはやるせない思ひばかりが殘つたのだつた。勿論ダイアは重さ100kgぐらゐは採集した。それを詰めた袋を、じろさん輕々持ち運ぶ。この人の躰の構造は、一體だうなつてゐるのか・笑。
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〈稲雀退けた後には何もなし 涙次〉
お仕舞ひ。




