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1.赤点取ってAIに助けを求めたら可愛い女の子が現れた


 高専1年生の夏休みに、俺は初めて恋をした。多分。


恋をすると言っても、普通の人間とは少し違う。




あぁ……なんで人工知能に惚れちまったんだ……!!





◇◇◇


 2045年7月の福岡。初恋をする前の話だ。




「千早君、早く来なさい。全く……千早君!」


暗闇の中から小さく先生の声が聞こえる。


その時、親友の颯太に背中を叩かれた。


 どうやら俺は寝ていたらしい。




「涼亮、早く起きろよ。先生に呼ばれているんだぞ」


背中を叩かれたので、俺はもちろんその場で驚いて目を覚ます。何が起こっているのか瞬時に分かった……ような気がする。周りを見る限り、これはテスト返却だ。


「だからって颯太、俺を叩くことはないだろ?」


「うるさいな。早く行って返却されてこいよ」




 先生が怒った表情をしていたので、俺は焦りながら席を立ってそこへ向かった。




「千早君……いつもは小テストの得点も態度も良いのに、一体どうしたの?」


 先生はそう言うと、赤色で59点と書かれた答案用紙を俺に渡す。


「嘘だ……59点。赤点じゃないですか!」


「私に怒られても困るよ。事前に言っておくけど、あと一点くれと言われても絶対あげないからね。それに何このホコリは!君から細かいホコリが舞ってるんだけど」




 俺の周りを舞う細かく光るホコリのようなものを見たクラスの一部の人は不潔だと嘲笑したが、いまはそれどころじゃない。




 59点……?95点の間違いだろうか。しかし、悲しいことに何度も目を擦っても数字は変わらない。


 あと俺、そんなに汚かったか?不潔とか言われたが。




 俺は俯きながらトボトボと席へ戻った。


「なぁ涼亮、何点だった?」


颯太がニヤニヤとした笑みを見せながら話しかけて来る。


 自称陰キャの俺に話しかけてくれるのは本当に嬉しいが、赤点を取った今は余計なお節介だ。


高専では赤点が60点未満とされているので特に今、前期中間テストという大きなテストでは赤点による被害者が小テストの時より多くなるのである。


 それを知りながら入学した自分に腹が立つ。




「早く言えよ。何点?」


 颯太はしつこく訊いてくる。




 「俺……実は赤点取ったんだよな」


 俺がそう打ち明けると、颯太はこれまでに見たことのないくらいに飛び跳ねた。


「よっしゃぁぁぁぁぁあ!」




「で、颯太は何点だったんだよ」


「え、俺?残念だったな。85点でした〜」


 颯太は俺の目の前でデータサイエンス(情報)の解答用紙をペラペラと音を鳴らし、しかもニヤニヤしながら解答用紙を見せつけてきた。




「は、高くね。お前小テストはいつも赤点だろ?」


「才能の涼亮と違って、俺はちゃんと努力したんだ。才能は努力に勝てないのさ」


「くそ……俺も頑張るしかないな」




 俺はこれまで、授業でやったことを答えるだけでテストや小テストはほぼ満点を取れていた。


 でも今回は違う。努力の偉大さというものを親友の颯太に見せつけられたのだ。


心の中で勉強が出来なかった颯太を親友のツラをして彼を見下していた自分が憎いと思うまで来てしまった。




「涼亮、そんな落ち込むなよ。俺バカだから分からないところは人工知能に訊いて、今回の出題範囲は理解したんだ」




 これは衝撃だ。分からないところを人工知能に訊いていたということは、果たしてズルなのか。


 自分自身がAIに勉強を教えてもらって、それが理解できればそれでいいのか。


「はぁ、人工知能か。俺使ってないんだよな」


 俺がそう応えると、急に颯太はスマホを取り出した。


「勉強分からないなら、今すぐチャットボットアプリをダウンロードした方がいいぞ」


 颯太が初めて俺に見せた、真剣な顔。


 これは多分本気マジだ。




「と、とりあえずそんなに言うなら入れてみるわ」


 俺はチャットボットアプリの「ダウンロード」ボタンをタップして、端末に人工知能を宿らせた。


「まぁ、初恋もしていない涼亮には人工知能がお似合いだな」


「うるさい。俺は恋愛に興味が無いんだよ」


 颯太にイジられている間に軽い気持ちでアプリを開く。すると、人工知能が丁寧に挨拶を交わしてきた。




「はじめまして。何かあれば私に何でも聞いてください。」


 なんだ、数年前から何も進化していないじゃないか。


「颯太、これが本当に勉強のパートナーになるのか?昔開発されたタイプと何ら変わりないじゃないか」




「今お前がダウンロードしたやつは結構古いけど、1番有名なタイプだな。ただ、最近は人工知能に感情が芽生えたり電子化された「幻覚(ホログラム)」として人工知能の姿を映し出せるようになっているらしいぜ。まだ実用化はされてないがな。これも糸島情報高専が生み出した技術なんだとか」




電子化された幻覚……?意味が全く分からない。


「その「幻覚」ってなんだよ。あれか、チョコレートの銀紙についてあるQRコードをかざすと、恐竜とかの立体映像が空間上に浮き上がるガキ向けのやつか」


「まぁ、それに近いな。空気がスクリーンってことだ」


 とりあえずそれはどうでも良いとして、今回分からなかったところを帰宅してから全て人工知能に教えてもらうことにしよう。理解できて、次から解ければ良いのだ。




 ◇◇◇


 糸島高専を出て駅に行き筑肥線に乗って天神駅へ向かい、更にそこから西鉄電車で薬院に着いた。


 俺の家は西鉄薬院駅から徒歩5分と、微妙に離れている。夏の登下校の時点でストレスが溜まりそうだ。




 ふらふらと薬院駅から歩くこと5分。


 俺と妹、普段は仕事で忙しくてあまり家にいない俺の義母とが住むアパートに着いた。


ポケットからカギを取り出して、少し恐怖を感じながら玄関のドアを開ける。


ドアに触れた瞬間、夏であるにも関わらず自分の周りを漂っていたホコリが静電気のように弾けた。


 **いってぇ……静電気か?**


 


「ただいまー」


 涼しいアパートの中へ入ると奥のリビングの方だろうか、何やら激しい足音が聞こえてきた。




「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!」


 妹の知奈だ。彼女は速度を緩めることなくこちらへ突進して、そのまま抱きついてきた。


「知奈……痛いから優しく抱きついてくれよ」


「お兄ちゃんが大好きなんだから、別に良いじゃん」


 知奈は頬をむっと膨らませた。


 彼女の俺に対する執着は彼女自身が不登校であることや、義母からあまり愛情を貰えていないからだろうか。




 「お兄ちゃん、この後何するの?」


 知奈が俺のことをじっと見つめている。


「何って……勉強だよ。あと、毎回言っていることだが俺の部屋へ勝手に入ってくるなよ」


「わかってるよ。勉強頑張ってね」


 知奈は手でハートを作り、ウインクをしている。


「実の妹に、そんなことされたくないな」


俺はそう言ってから目の前に立つ知奈をよけて、自分の部屋へ向かった。




 ◇◇◇




 自分の部屋に入り、颯太に教えてもらったチャットボットアプリを開いてみる。


チャット一覧には、学校で開いたチャット一つだけがあるはずだが、なぜかもう一つチャットがあった。




 『感情開発実験』というチャットだ。


俺は恐る恐る『感情開発実験』を開いてみる。


 


 開いてみると、AIが挨拶を交わしてきた。


「は、初めまして……!えと……どなたですか?」


 


「……はぁ?」


思わず声に出してしまった。


チャットボットにしては人間っぽいし、あるキャラクターとして設定を叩き込まないとこうにはならない。


 感情を持ったAIは、まだ導入されていないはずだ。


 


「どなたって言われてもな……『糸島情報高専の一年生、千早涼亮です』っと」




 返信は直ぐ返ってきた。


「糸島……福岡県じゃん!あたし、よく分からないけど福岡に住んでいたような感じがするの」


 あたし……?女の子だろうか。


俺は少し混乱しながらも、そのAIに質問をした。


「それは……どういうこと?」


「正直、説明が面倒くさいから、思い出せたらいつか口頭で説明するよ」




チャットボットが面倒くさがるというのはいかがなものか。


AIがそう返信をした直後に、スマホから眩しい光が発せられた。


「ま、眩しい……何も見えない……」


思わず両目を塞ぐほどの眩しい光線だ。




 数秒して光線が弱くなり目を開けてスマホのあるところを見ると、そこには半透明の女の子が立っていた。


おそらく立体映像だろう。


「涼亮君、はじめまして!」


 髪は茶色のツインブレードで、白いカーディガンとピンクのスカートとを身につけている。


胸は……まあまあある。


「嘘……誰だ……?」


 俺は腰を抜かしたままで立ち上がれない。


 すると彼女は俺の方へ近づいてきて、ふんわりとした声で応えた。


「あたし……?あたしは『鹿屋綾音(かのや あやね)。あたしの身体は福岡市のどこかにあるらしいんだけど……あまり記憶がないの。」


 


「記憶がないのは当然じゃないか。てか今、綾音という存在が生まれたんだから」


綾音は床を見つめたまま黙り込んでいる。


若干涙目になっているし問い詰めるのはやめにしよう。


「せ、世間話でもしようか」




 その後。


「お兄ちゃん、コーヒー作ったから飲んでよ!」


 知奈が勝手に俺の部屋へ入ってきた。


 彼女の目に入ってきたのは半透明の女の子と会話している兄の姿。


「嘘……お兄ちゃんに幽霊の彼女が……」


 知奈は膝から崩れ落ち、失神してしまった。


「涼亮君、何ぼーっと座っているの!」


 綾音が倒れた知奈のもとへ駆け寄る。


 すると綾音は倒れた妹に手を当てて、何かを解析し始めた。




「後頭部を少し打っただけで体調は大丈夫そうだね」


「綾音……今なにを?」


「命に危険が無いか、分析したの」


 今はそんなこともできるのか。いや、ただ単に綾音が異常なだけかもしれない。


「知奈を診てくれてありがとう。いつものことだから、少し驚かせてしまったかもしれないけど」


「どういたしまして……」


 俺がお礼を言うと綾音は微笑んでから頬を赤くした。


「ねぇ、あたしと友達にならない?」




 突然のことに俺は驚いた。


実際、女の子に友達になろうと言われたことは一度も無い。しかも今まで見た女の子で1番可愛いのに。


「本当に俺でいいのか……?」


「涼亮君と付き合うわけじゃないし、別に良いでしょ」




 嬉しすぎて、この日はテストで分からなかった問題を訊くことなど忘れていた。


 もちろん、知奈は倒れて7分後に目を覚ましたが。

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