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分岐の代償
千紗との対話から数日後。
三人のヒロイン──真央、紗耶、莉子。
それぞれの関係は順調に見えた。
笑ってくれる。
手を振ってくれる。
肩が触れる距離にいる。
──なのに、どこかで歯車が噛み合ってない。
「最近、セイタって……ちょっと違う気がする」
真央が、ふいにこぼした。
「無理してないですか? 私たちに合わせようとして……」
紗耶の視線は鋭く、心の奥をえぐる。
「先輩……あの、やっぱり私じゃ……」
莉子の言葉は、語尾を飲み込んだ。
俺は思った。
(全部、気づかれてる)
どれだけ優しくしても、
どれだけ時間を注いでも──
“想い”だけは、誤魔化せないんだ。
この世界はループする。
でも、心はリセットされない。
彼女たちの中に刻まれていく違和感。
積み重ねた“何か変”という予感。
千紗が言っていた。
「誰かを救うと、別の誰かが苦しむ。
それが“この世界のルール”なのかもね」
(……それでも、やるって決めたんだろ、俺)
俺は歩き出す。
選ばなかったルートの先に、誰かが泣いてるなら──
今度はそこへ手を伸ばす番だ。