全員好きでなにが悪い——でも、俺は君を選んだ
春。
あたたかな陽が差し込む中庭で、俺はベンチに腰掛けていた。
隣には、千紗。
この世界で、初めて出会ったはずの、でもきっとどこかでずっと待っていてくれた彼女。
「ねえ、セイタ」
千紗がふと尋ねる。
「あなた、本当に……全員のことが好きだったの?」
俺は少しだけ考えて、それから笑った。
「うん。嘘じゃない。真央のまっすぐなところも、莉子の気遣いも、沙耶の静かな優しさも……全部、大事だったよ。全部、好きだった」
千紗は少しだけ眉をひそめた。
「……ちょっとモヤっとするんだけど」
「だよな」
俺は苦笑してから、ゆっくりと彼女の方に向き直った。
「でも、今はちゃんとわかってる。
“全員を好き”っていうのは、優しさのようでいて、ただの臆病だった」
「臆病?」
「誰か一人を本気で好きになることが怖かったんだ。
誰かを選んだら、他の誰かを傷つける気がして、踏み出せなかった」
千紗は黙って、俺の目を見つめていた。
「でも、気づいたよ。
“誰か一人を本気で愛する”ってことは、
“その他の誰か”の未来を信じて、任せるってことなんだ」
「……うん」
「だから俺は、ようやく言える」
俺は千紗の手を取った。
「全員好きでなにが悪い?
……でも、俺は“君”を選んだ」
千紗の目が潤んだ。
それは、何度も何度も失われた記憶の果てに、
ようやく届いた言葉。
「セイタ……ありがとう」
その手のぬくもりが、本物だった。
世界はもうループしない。
誰もやり直さない。
この先に待っているのは、“本当の未来”だけ。
真央も、莉子も、沙耶も、
選ばれなかった彼女たちは、それでもちゃんと前を向いて歩いている。
そして、彼女たちを見送った俺は、
もう後ろを振り返らない。
「……さあ、行こう。これから、俺たちの物語が始まる」
「うん。私も、ちゃんと選ぶ。あなたを」
ふたりで歩き出す足音が、春風に紛れて遠ざかっていった。
やり直しの物語は、ここで終わる。
選ばなかった優しさも、選ばれなかった哀しみも、
全部抱きしめて——
俺は、「ひとり」を選んだ。
⸻
完




