最後のループ、最初の恋
朝、目が覚めると、世界は静かだった。
風の音も鳥の声も、誰かの呼びかけも――何も聞こえなかった。
代わりに、胸の奥がじんわりと熱い。
(……わかってる。これは“最後”のループだ)
もう逃げられない。
もう誰かに任せることもできない。
この世界では、俺が選ぶ。
でも違う。
“選ばなきゃいけない”から選ぶんじゃない。
“選びたい”って、初めてそう思えたから。
誠也が言っていた。
「好きな人が現れるまで、誠実に生きろ」
千紗が願ってくれた。
「ちゃんと、名前を呼んで。その子と、生きて」
そして今、ようやくその感情が、形になろうとしている。
俺はベッドから立ち上がり、制服に袖を通す。
このループで、やることはひとつしかない。
⸻
いつもの教室、いつもの時間。
真央が元気に手を振っている。
莉子が少し照れくさそうに笑っている。
沙耶が静かにノートに目を落としている。
その日常のなかに、俺の心はもう揺れていなかった。
(ごめん。俺は――)
俺が見ているのは、もうそこじゃない。
放課後。
校舎裏の並木道。
夕焼けが赤く染めるその場所で、彼女は立っていた。
「……待ってたよ、セイタ」
千紗じゃない。
真央でも、莉子でも、沙耶でもない。
“まだこの世界では名前すら語られていなかった、たった一人の少女”。
彼女が、そこにいた。
「やっと……やっと気づいてくれたんだね」
見たことのないはずの笑顔が、なぜか懐かしくて。
声を聞くだけで、胸の奥が震える。
「君の名前……思い出した」
俺は、確かにその名前を知っていた。
でもそれは、言葉じゃなくて、心に刻まれていたものだった。
「——千紗」
違う世界の記憶。
選ばなかった、でも誰よりも俺を支えてくれていた“もうひとりのヒロイン”。
世界の再構築が進み、新たな“答え”を得た今、
俺の心が自然と選んでいたのは、この子だった。
「俺は……お前と生きたい。もう“誰も選べない”なんて言わない。
お前を、ちゃんと好きになった。ちゃんと、“選びたい”って思ったんだ」
千紗は、泣いていた。
でもそれは、何度繰り返しても手に入らなかった、たった一度の幸福の涙だった。
「……ありがとう。やっと、報われた気がする」
その瞬間、ループの世界が静かに、静かに、音を立てて崩れていく。
だがもう、怖くはなかった。
これは終わりじゃない。
ようやく始まる“本当の恋”の物語。




