親友なんていたか?
「おーい、セイター。遅刻だぞー、バカ!」
その声で目が覚めた。
窓の外から差し込む光がまぶしい。見慣れた天井。大学の寮の一室。……のはずなのに。
「おい、まじで寝てたのかよ。お前、今日ゼミあるだろ。莉子に睨まれてもしらねーぞ?」
ガチャ、とドアが開いて、男が入ってくる。
黒髪にピアス、少しだらしない服装。それでいて、やけに人懐っこい笑みを浮かべていた。
「……誰?」
俺は思わず言っていた。
「は?」
男が眉をひそめる。だがすぐに、笑って肩をすくめた。
「なーに言ってんの? 寝ぼけてんの? お前の親友だよ、誠也っす誠也。ま・み・や・せ・い・や。そろそろ覚えてくれないと泣くぞ?」
「…………」
誠也?
誰だよ、それ。
そんな名前、聞いたことない。
でも――頭のどこかが、痛んだ。
(おかしい。何かがおかしい。だけど……何が“おかしい”のか分からない)
「ほらほら、変な顔してないで行くぞ。朝食付き合えよ。真央がまたジュース一気飲みして変な顔するの、見に行こうぜ」
誠也は笑って、俺の肩を軽く叩いた。
その感触は、やけにリアルで、親しげで。まるで何年も一緒にいたような距離感だった。
でも違う。
俺の親友は……いたか?
誰だ? 俺には、そんな存在が――
いや、いたような……いなかったような。
「……お前、ほんとに俺の親友なのか?」
思わず聞いた。
誠也は少しだけ黙って、それから――にやりと笑った。
「おう。……“今回は”な」
「……え?」
「冗談だよ。行くぞ、セイタ。今回もお前が全員救うんだろ? それとも、ちゃんと一人を選べるようになったか?」
――その一言で、背筋が凍った。
(こいつは知っている。ループのことを……)
誠也の背中が、ゆっくりと扉の向こうに消えていく。
その後ろ姿を見ながら、俺は確信した。
世界は――またループしている。
しかも、今度の世界には最初から“誠也”がいた。
最初から俺の“親友”として、すべてを見ていた顔で。
(なぜ、こいつが……?)
心臓が高鳴る。
思い出せない記憶と、捻じ曲げられた世界。
そして、再び始まる“全員を救う”一週間。
でも今回は、違う。
最初から、俺を見ている“目”がある。
「さて、セイタ。今度こそ、お前の答えを見せてもらうよ」
誰もいない部屋で、誠也の声だけが低く響いた。




