君がくれた未来へ
卒業式の日。
冷たい風の中、桜の蕾はまだ硬く、校舎の影は長かった。
「……終わったな」
俺は一人、ゼミ棟の裏手にあるベンチに座っていた。
この場所は、かつて——いや、“かつて”と呼んでいいのかも分からないけれど、千紗と何度も話した場所だった。
彼女が世界を作ったこと。
俺が全員を救いたいと願ったこと。
そして、別れを告げたこと。
全部、ここで起きた。
「セイター!」
真央の声が遠くから聞こえてくる。
「あんたまた一人で黄昏れてんの? 写真撮るよ、写真!」
「……今行く!」
俺は立ち上がり、振り返らずに歩き出そうとした。
——その時だった。
「……セイタ」
微かに、耳元で風が囁いた。
振り返っても誰もいない。
それでも、間違いなく感じた。
(……千紗)
ポケットに手を入れると、そこにはあの古びた付箋。
いつの間にか、文字が書き加えられていた。
「いつか、また君に会えるように、私はちゃんと“好き”って言えるように生まれ変わる」
「……ずるいよ、お前」
笑いながら、俺はそっと目を閉じた。
——ああ、分かった。
だから、待ってるよ。
この世界で、いつかまた。
名前も記憶もなくても、きっと俺は気づく。
お前が、千紗だってことを。
俺は空を見上げる。
白い雲が流れていく。
その先に、まだ見ぬ未来がある。
真央も、莉子も、沙耶も。
そして——もう一度出会う千紗も。
全員が笑っていられる未来。
そのために、俺は生きていく。
「……またな。千紗」
俺は笑って歩き出した。
新しい春の風が、優しく背中を押してくれる。
これは、“彼女がくれた未来”を生きる物語だ。
——そしてまた、恋をする物語だ。




