ループの記憶
──何度目だろう。
また“春”が始まる。
桜が咲いて、出会って、笑って、選べなくて、崩れていく。
「セイタくん、また選ばなかったね」
声が聞こえる。
白い空間の中で、その少女──千紗が立っていた。
「そんなに優しくして、どうするの?」
「全員に『好き』って言ったら、誰も幸せになれないよ」
「でも、それでも君は──またここに来た」
俺は答えなかった。
けど、その手には、三人の名前が書かれたノートを握っていた。
真央。紗耶。莉子。
──忘れたくなかった。
──何度ループしても、彼女たちを置き去りにしたくなかった。
「セイタくん、ひとつだけ教えて。
君はなぜ、誰も選ばず、全員を救おうとするの?」
彼女の問いかけは、優しさを持っていた。
でもその奥には、“確かめたい何か”が見えていた。
「……誰かを切って選んだ幸せに、価値なんてないだろ」
「それが“正しさ”だとしても、俺はそんなもんに従いたくない」
静かに目を閉じて、千紗はつぶやく。
「……じゃあ、次のループでも証明して」
「君の“愛”が、世界を変えられるのかどうか」
──世界が回り出す。
目の前に、三人の笑顔が戻ってくる。
でもその奥に──千紗の涙が見えた気がした。