始まりの嘘
「……やっぱり、もうダメかもしれないな」
あの夜。セイタはひとり、暗い教室で呟いた。
誰もいないはずの空間。
だけど、その言葉に応じるように、静かに誰かが現れる。
「ダメじゃないよ、セイタ。まだ、やり直せる」
「……千紗?」
銀髪の少女、千紗が静かに立っていた。
その姿は、どこか現実離れしている。
けれどセイタには、彼女が“最初”のきっかけだったことを思い出していた。
「ねえ、セイタ。君は“もしも”を望んだよね。
“もしも、あのとき別の選択をしていたら”って。
“誰も泣かせずにすむ方法があるなら”って」
「……ああ。だけど、それが叶うなんて思ってなかった」
「叶えてあげたの。わたしが」
千紗の声はどこか寂しげだった。
どこかで聞いたことがあるような、懐かしさをはらんでいる。
「なんでだ? なんでそんなこと……」
「セイタ、君は気づいていない。
でも、君が“選ばなかった”世界の中にも、確かに“心”が存在していた。
……それを、ずっと見てきたのは、わたし」
千紗はゆっくりと手を伸ばし、セイタの胸にそっと触れる。
「君が真央を選んだ世界では、莉子が泣いていた。
莉子を選んだ世界では、沙耶が独りで夜道を歩いていた。
沙耶を選んだ世界では、真央が、ずっと思い出だけを抱えてた」
「……それでも、俺は……誰も、選べなかった。選びたくなかった」
「だから、君に“ループ”を与えた。
選ばなかった子たちの想いを、見て、感じて、
君が“誰も切り捨てない”選択ができるか、試すために」
セイタは目を見開く。
「お前が……このループを?」
「うん。私は“神様”だからね。
でも、わたしの願いでもあった。
――誰かひとりでも、全部じゃなくても、
セイタが全員を救ってくれることを、心から願ってた」
その時、セイタは気づいた。
「……お前も、俺のことが……?」
千紗は、はにかむように微笑む。
「うん。ずっと、見てたから。……どの世界でも、どんなセイタも、
わたしには、ちゃんと見えてた」
これは、全員を救うために、
「神様」が自ら“人間の恋”に飛び込む物語。




