莉子は甘えたいだけじゃない
夕暮れ。
図書館前のベンチで、彼女はちょこんと座っていた。
「……やっぱり、来てくれると思ってました」
振り返って、微笑んだのは【莉子】。
後輩で、ふわっとした雰囲気の女の子。
天然で、甘えん坊で、いつも俺のことを「先輩」って頼ってくる。
「これ、作ってきたんです。お腹すいてませんか?」
差し出されたのは、手作りのおにぎりとクッキー。
見た目はちょっと不格好。でも、どれも美味そうだった。
「……あ、クッキーは失敗してないはずです! たぶん!」
「たぶんかよ」
笑って受け取った瞬間、
莉子はふにゃっとした笑顔で嬉しそうにした。
俺はひとくちクッキーをかじる。
「うん、うまい! ……おにぎりも、ありがとな。めっちゃ腹減ってた」
「……ほんとに? 嘘じゃなくて?」
「俺が嘘つく顔に見えるか?」
「……ちょっとだけ見えます♡」
「おい」
何でもない会話が、こんなにもあたたかい。
でも──
知ってる。
莉子はただ甘えたいだけの子じゃない。
あの日、
泣きながらも「先輩のこと、守りたいんです」と言った、
あの強い瞳も、俺は何度も見てきた。
「莉子」
「はい?」
「今度は俺が守る番だ。お前の笑顔も、泣き顔も、ぜんぶ俺にくれ」
莉子は、びっくりした顔で俺を見た。
それから、小さく、小さく頷いた。
「……じゃあ、わたし、
もっとわがまま言ってもいいですか?」
「好きです、先輩。ずっと、好きでした」
夕焼けに照らされながら、
俺の世界にまたひとつ、強くて優しい想いが灯った。




