懐かしい声
放課後の廊下、夕日が差し込む中で俺はふと立ち止まった。
目の前には、教室のドアにもたれかかっている一人の女子。
長い髪を揺らしながら、腕を組んでこちらを睨むように見ていた。
「……ちょっと。セイタ、あんた最近調子に乗りすぎ」
そう言ったのは、真央。
中学からの同級生で、そして――幼稚園の頃、一度だけ出会った“あの子”。
「いきなり何だよ」
「何だよ、じゃない。……あんた、莉子と仲良くしすぎ」
「……それ、嫉妬か?」
「はぁ!? ち、違うし! 勘違いすんなバカ!」
怒鳴ってから、真央は慌てて目をそらす。
でも、耳が真っ赤になってるのは俺にはバレバレだ。
「じゃあ何だよ」
「……ちょっと、心配なだけ。あんたって、昔から誰にでも優しくて、そういうとこあるでしょ。フラフラして、気づいたら誰か傷つけてるタイプ。……あたし、そういうの見てらんないから」
強気な言葉に隠れてるのは、優しさだ。
それがわかるから、俺は真央のことが気になるんだ。
「なぁ、真央」
「なによ」
「お前、覚えてないかもしれないけど……俺たち、もっと前に会ってるんだぜ」
「……は? 中学の前にってこと? いつよ」
俺は笑った。そして、懐かしさに目を細めながら言った。
「桜並木幼稚園。ブランコで泣いてた俺に、“一緒に遊んであげてもいいよ”って声かけてきた女の子がいた。……それ、お前だった」
真央の目が、驚きに見開かれる。
「えっ……それ……まさか……」
「俺、あの時からずっと、真央のこと忘れてなかった」
「……うそ……あたし、そんなの……」
言葉を詰まらせて、真央はゆっくりと視線を落とした。
「ごめん……私、忘れてた。ずっと、初対面だと思ってた」
「……それでもいいよ。今思い出してくれたなら、それでいい」
その瞬間、真央はふっと笑った。
どこか懐かしそうで、でもちょっと切なげで。
「ねぇ、セイタ。もし、あの時ちゃんと覚えてたら……私、今と違ってたかな?」
「かもな。でも、今のお前もちゃんと好きだよ」
「ばっ……! な、なに言ってんのよ!」
真央は顔を真っ赤にして、俺の胸をぽかぽか叩いた。
でも、その手には、力が入ってなかった。
――春の風が、廊下の窓を静かに揺らしていた。




