明日の朝、君と
朝、カーテン越しの光が差し込む。
「……セイタくん、起きてください」
耳元で囁くような声。
目を開けると、莉子の顔がすぐそこにあった。
「……まだ、眠い」
「もう朝ですよ。せっかく早起きしたのに」
「じゃあ、もうちょっとだけ」
「だめです。朝ごはん作ったんですから、食べてください」
「……結婚したみたいなセリフだな」
「……だったら、練習ですよ」
笑い合って、布団から出る。
莉子が用意した朝ごはんは、卵焼きに味噌汁、そして焼き鮭。
俺の好みを完璧に把握していた。
「うまっ……って、莉子、これ、だし巻き?」
「はい。甘いやつじゃなくて、出汁のきいたのが好きだって言ってたので」
「……やっぱ結婚してるじゃん、俺ら」
「ふふ、じゃあ入籍届持ってきます?」
「笑えねぇよ、マジで」
俺たちはあの夏から、少しずつ未来の形を固め始めた。
同じ大学への進学も決まった。
将来の話をするとき、莉子はいつも“ふたりで”って言葉を使う。
俺はそれが、心からうれしかった。
食後、ベランダに出る。
日差しは優しく、風は少し涼しい。
莉子が隣で、そっと手を握った。
「今日も、普通の日ですね」
「……ああ。でも、それが一番いい」
「私は、ずっとこうしていられたらいいなって思います」
「……俺も」
好きな人と過ごす朝。
他愛ない会話。
笑い合う時間。
心地よい沈黙。
どれもが、“特別”で、“奇跡”みたいだった。
莉子が顔を上げて、まっすぐに俺の目を見た。
「セイタくん。ありがとう。選んでくれて。
私……あの日、ずっと不安だったけど……
今は、自分をちゃんと好きでいられます」
「それは、俺のおかげじゃなくて、お前自身が頑張ってきたからだろ」
「でも、セイタくんがそばにいてくれたから、頑張れたんです」
「……これからも、そばにいるよ」
「……はい」
そして、俺たちは今日もまた、新しい“明日”を迎える。
心のどこかにまだ不安が残っていたとしても、
迷う日があったとしても、俺はこの手を離さない。
――君と一緒なら、大丈夫だ。




