真央のバカと優しさ
「はあ!? なんで遅れて来んのよ!」
教室の前で待っていた真央に、いきなり肘鉄を食らった。
「いってぇ! だから言ったろ? 途中でちょっと買い出し手伝ってたって!」
「ふん、他の女といちゃついてたんでしょ?」
真央はいつものようにふくれっ面。
だけど──その手には、俺の好きなメロンパンといちご牛乳。
……買っといてくれたんかい。
「……ったく、ホント抜けてるわね。お前」
「なんだよ、誰かさんはしっかり覚えててくれたくせに」
「べっ、別に覚えてなんか──! た、たまたまよ!」
ぷいっと横を向く真央。
でも、その耳は真っ赤だった。
真央は昔から、怒ってるフリが下手くそだ。
それは、ずっと一緒にいて分かってたこと。
でもこのループを繰り返してる間に、
俺は「その優しさがどれだけ貴重なものか」ちゃんと気づいた。
「なあ真央、ちょっと歩こうぜ。桜、見ながら」
「へ? べ、別に……いいけど?」
並んで歩く道。
同じ道を何度も繰り返してきたのに、
真央の横顔は、いつだって新しい。
「なにニヤけてんの、キモ」
「うっせ。俺がどんな顔してようが俺の自由だろ」
「ばーか」
「ありがとな、真央」
「……っ!? な、なによ急に」
「うん、ただ言いたくなった。ありがとな」
──この感謝を、どんな世界でも、絶対に忘れない。
真央はそれ以上何も言わず、
でも俺の手に、自分の小指をそっと絡めてきた。
この手を、絶対に離さないって決めてる。
たとえ、次が修羅場だとしても──