7話 冷たい拍手
歓迎パーティー用のドレスは、アニス帝国側で用意してくれていた。
真っ赤なドレスだ。重厚感のある生地を黒と金の刺繍がさらに豪華に引き立てている。デザイン的に少し古めかしい気もするが、アレイスター城の調度品らとはとても調和がとれていた。
そんなドレスを身に纏って、パーティー会場の大きな扉の前で落ち合えば、エーデルガルド=フォン=アニス皇帝陛下が優美な笑みを浮かべてきた。
「それは代々王妃に受け継がれてきたドレスなんだ。着心地はどうだい?」
「それを聞いて、余計に重たくなったよ」
いや、早くない?
嫁ぎにきたとはいえ、正式な婚姻契約書に署名するのは五日後の結婚式のとき。今は実質ただの婚約者だ。それなのに、そんな大事なドレスを容赦なく用意してきた若き皇帝は赤いラインが映える銀色のジャケットの袖を軽く払う。
そして、その腕を軽く曲げた。
「どうぞ、レディ?」
俗にいうエスコートである。しかも流し目付き。
こいつ、手慣れてるな?
かという私は、ドレスよりも軍服を愛用していた女だ。戦争の合間にこれまた宣伝役としてパーティーに参加させられたこともあるが、父上以外のエスコートなど初めてである。
「……どーも」
手を添えた腕の感触は、服越しといえ華奢だった。
大きな扉が開けば、優雅な管弦楽曲が出迎えてくれる。
シャンデリアの明かりがまぶしい。
しかし、ゆっくりと歩く私たちに向けられる視線は、とても険しいものだった。
「彼女が、あの……」
「先程もヘイムダルの忘れ形見に、手ひどい怪我を負わせたとか」
まったくもって遺憾だ。私は彼に擦り傷ひとつ付けていない。
それでも『そういうこと』にしたほうが、貴族的には面白いのだろう。誰かが情報操作をしているのかもしれないね。
だけど、私の隣でゆっくりと歩く皇帝は声を潜めず話しかけてくる。
「聞いたよ、さっきはセベクに訓練をつけてくれたんだって?」
「えぇ、まあ」
「彼はとても真面目だが、昔から頭でっかちでね。見聞を広めるいい機会になったはずだ。ありがとう」
そんな私たちの会話に、参加客はソワソワ。
少なくとも皇帝は私に悪意を持っていないようだね。表向きは。
ならばメイドにドレスを破かれたことへの謝罪のひとつももらいたいところだが、あくまでここはパーティー会場のど真ん中。下手に話題を出したところで、こちらの立場が悪くなるだけなのは簡単に予想が付く。心の中のお兄ちゃんも『余計なことを言うな!』と叫んでいた。
だから私も何も遺恨がないかのように会話を繋げる。
「セべクとは仲いいの?」
「幼馴染みさ」
「なるほど」
だけど、しょせんは会場を進むわずかな時間。
会話が弾むこともなく、皇帝は声を響かせる。
「皆の者、ご苦労である」
その一声に、会場がシンと静まり返った。
管弦楽団も含めた全員が頭を垂れる。
このような光景は何度見ても、壮観の一言。てか、私も頭を下げた方がいいのかな?
私が皇帝に視線を向けると、彼は優しい一瞥をくれたのち、再び声を張り上げる。
「紹介しよう。彼女が今日の主役、ノア=シャルル姫だ」
対して、こんなに冷たい拍手をもらうのは初めてである。
だけど皇帝はまったく表情を変えずに、堂々と話し続けた。




