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5話 ノア姫のペット



 シャルル王国の首都から、このアレイスター城までは馬を乗り継ぎ十日くらいの旅路だった。


 姫とはいえ、戦争なんかに参加していたため、遠征も野宿も慣れっこ。

 それでも、私だって人間だ。まったく疲れないわけではない。


 だから、到着初日の歓迎パーティーなんて、ありがた迷惑なんだけど……。


 アニス帝国の連中は、もっと迷惑なイベントを企画してくれたようである。


「到着早々、せわしないね」


 私のために用意された王宮の部屋は、それなりに立派なものだった。

 寝心地が良さそうな大きなベッドに、厚手のカーテン。立派なラグ。

 ただ問題は、部屋と私のペットが真っ赤に汚れていたことだ。


 鉄の臭いなど、慣れている。

 倒れる人間など、何度踏みつけてきただろうか。


 私の中のお兄ちゃんが叫ぶ。『世界平和を三回唱えろ!』と。

 だけど私は心の中で「はいはい」と聞き流しながら、ペットの頭を撫でることにした。


「ポチ、いい子にしてた?」

「わん」


 メイド服のところどころが赤く染まっているが、ポチ自体に怪我はなさそうである。


 そう――私がシャルル王国から唯一連れてきた従者が、メイド服を着たポチだ。

 当たり前だが、れっきとした人間である。


 年齢はおおよそ十三歳。諸事情で、私が拾ったからペット。本人にそれでいいかと聞いたら「わん」と答えた。ペットといえば、名前はポチ。以上である。


 拾った直後、表向きは使用人扱いしたほうがいいかと、メイド服を用意した。そうしたら、とても気に入ったらしく、ポチはいつもメイド服を着ている。ちなみに、犬耳としっぽの装飾品を用意したのは彼女自身だ。私もそこまで変な趣味を持ちあわせていない。


 それ以外は基本的に無難にかわいいポチ。肩で切りそろえた白髪の中の、真っ黒な一房が特徴的だった。そこだけ染めているのかと聞いたことがあるが、「わん」としか話さないため、私はその理由を知らない。メイド服もモノトーンを基調しているので、メイド服を着るために生まれたくらい似合っているのだが。


 ともあれ、そんなかわいいポチのまわりに、血だらけのメイドが倒れている。

 皆、かろうじて生きているようだ。苦しそうな吐息や嗚咽がいくつも重なっている。


 彼女らは同じメイド服を着ていても、ポチとはデザインが違う。このアレイスター城のメイドなのだろう。


「さあて、この状況をどうするかなぁ……」


 ベッドの上には、ボロボロになったドレスが置かれていた。白いシルクの豪華なドレスだ。ウエディングドレスというものである。


 敗戦の賠償金でまともに出せる持参金がないからと、せめてもの私の結婚祝いとして、お兄ちゃんが仕立ててくれたのだ。お兄ちゃんの手縫いで。その時間を公務に充てれば多少は寝れるだろうに、本当無駄に苦労性の大好きなお兄ちゃんである。


「一応の確認にすぎないけど……ポチはあのドレスを守ろうとしてくれたんだよね?」

「わん」


 私が玉座のまで挨拶している間、ポチはこの私室に荷物を運んでくれる手筈となっていた。 


 持参したものは少ないとはいえ、私の従者はポチひとり。同時に城の人たちに挨拶したり、施設内の確認をしたりなど、ドレスを部屋に置いて移動しなければならない事情があったのだろう。これでも、ポチはけっこう真面目に働いてくれるかわいいペットなのだ。


 そのあいだに、アニス帝国のメイドに嫌がらせをされているところを、ポチが発見。即座にちょっぴり過剰な対処をした結果――こんな惨状ができあがったと推察できる。


「やっちゃった?」


 案の定、私の問いかけにポチは「わん」と頷いた。

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