48話 私のかわいい
地下から出たあとに、訊いてみた。
「実験を受けて、本当に大丈夫なの?」
「たしかに一時は感情的になりましたが、もう大丈夫です……むしろ、余計に魔力が増えた気がしますね」
あっけなく言ってくれるが、ようは悪魔にされそうになっても、なんともなかったということだ。これ、私が助けにいかなくても何も問題なかったやつなのでは?
むしろ行かない方が『殺してくれる』相手もいなくて、良かったまであるのでは?
気まずさに私が視線を逸らしていると、エルが黒いドレスの裾を翻す。
したたかに笑うエーデルガルドというお姫様が、とても美しかった。
「もとから魔法の天才なのに、悪魔も飼い慣らすとか……わたし、無敵ですね」
「自慢の旦那様だね』
「はい、世界中に誇ってくださいね!」
天才が調子に乗ったらめんどくさい。
この世の真理を体感しつつも、エルが嬉しそうだから……まあ、いいか。
その後、エーデルガルドの母親の遺体は内密に、早急に、だけど丁寧に埋葬された。やはり悪魔化計画の実験体にされていたようで、調査の結果、同じような遺体が複数発見されたらしい。そんな道徳に反した実験が戦後も皇帝の許可なく進められていたと、皇帝エーデルガルド=フォン=アニスは、ヨハン=フォン=マイヤーを首謀者として投獄した。
皇帝行方不明事件は、その調査を独断で行っていた――ということにしたようだ。裁判は、落ち着いてから執り行うとのこと。まだまだ余罪もあるらしく、判決までは長い時間がかかりそうとのことだ。
しかし、皇帝としてのエルの顔は、清々しいものだった。
「きちんとアニス帝国の法に則って裁けることに安心してます。それが一番……セベクたちに顔向けできると思いますから』
さらに余罪の証拠品を、またポチとニーチェ皇子が持ってきたようだ。相変わらず喋らないポチの代わりにニーチェ皇子に「どこから拾ってきたの?」と尋ねれば、皇子はいつもどおりのにぱーっとした笑顔で応えた。
「おさんぽ中だよ! ねー、ポチちゃん」
「わん」
ポチはすり寄ってきたニーチャ皇子を、ぱしんっと適度に痛そうな加減で叩く。
え……なに、この仲良し距離感。
二人で仲良くお喋りしている光景を見たという話も聞く。
もしかして私、一番ポチに心の距離をとられてたりする?
――と、むくれたまま、結婚式当日。
「わん」
ポチが差し出してきたのは、真っ白なドレスだった。
この城に来た当日、いきなりメイドたちに嫌がらせとしてボロボロにされたウエディングドレスである。苦労性なお兄ちゃんが、せめてものお祝いにと贈ってくれた、シャルル王国から持参した数少ない私のもの。
そのドレスが、新品同様にきれいに仕立て直されていた。
「これ、ポチが直したの?」
「わん」
「いつの間に?」
「わふん?」
……いや「わふん?」じゃわからないよ、ポチ……かわいいけれど。
それでも裂けていた部分もひだで上手く隠して、丁寧な仕事をされたのが素人目にもわかる。
ポチも常に忙しかったろうに、いつの間にこんな作業を……。
私は目の下にうっすら隈を作っているポチに向かって、両手を広げる。
「ポチ、おいで!」
すると、ポチがとても嬉しそうな顔で私の胸に飛び込んできた。
あ~、ぴょこぴょこ動くモフモフの耳と尻尾。艶やかで撫で心地のよい頭。ほんのりと甘い香り。ポチという存在すべてに癒される~。
「ありがとう、ポチ。だいすきだよ!」
「わんっ!」
やっぱり、私のポチは世界一かわいい。




