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悪役戦姫ノア、男装皇帝に嫁入りする  作者: ゆいレギナ


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42話 悪夢の顕現


 ◆

 

 なにやら、ヨハン=フォン=マイヤーが語るには。

 婚約者が男のフリをすることになったから、婚約破棄ね――となってしまって、色々と拗ねらせていたということだろうか。それにはちょっとだけ同情する。あんたの野望はともかく、あれだけかわいい子だ。そりゃあ男なら惜しいとなるだろう。私はあくまで女だから、想像にすぎないけどさ。


 ということで、私は物陰から飛び出した。


「これで僕は、正真正銘の王に――」

「させないよ、ばーーーーーーか!」


 ずごんっっ!!

 後ろから思いっきり大剣を振りかぶると、鈍い音が響く。


 ……ま、あれだ。同情はしても、手加減をする義理はない。

 完全に油断をしていたのだろう。私の剣による殴打を脳天に直撃したヨハンは、その場にフラフラ三回転半してから床に倒れた。


 私はあっけなく倒してしまった犯人を見下ろし、小首を傾げる。


「これでセベクの仇はとった……でいいのかな?」


 私が持ってきた剣は、セベクから預かった形見の剣である。

 いざってときにメイド服は動きにくいかと、一度部屋に戻っていつもの軍服に着替えてきたのだ。そのとき、同行させていたニーチェ皇子がこの剣を持っていくよう押し付けてきた。


「いやあ、純粋な金属の剣は、魔力で探知もされないからね。隙を突けるかと思ったんだけど……ここまで見事に決まるとは、我ながらビックリだよ」


 どうやら、セベクのお父さんが亡くなったのも、こいつの策略だったらしいし? それを形見の剣で討ち取ったのだ。あながち間違ってないだろう。


 ほんと、あの少年は何者なのだろうか。

 アニス帝国は思っていたよりもおもしろい国のようだね。


 ……と、ひとりで満足している場合じゃない。

 私は黒いドレスを着て唖然としている彼女に向かってフォローを入れる。


「あ、見てのとおり殺しちゃいないよ。だって、ちゃんとこういうのはアニス帝国の法に則って処分したほうがいいんでしょ?」


 心の中のお兄ちゃんに相談した結果、あまり出しゃばるなという結論になったのだ。

 ここは、エーデルガルド=フォン=アニスが治める国なのだから。


「だから、あとはあんたの判断に任せるよ、皇帝陛下?」

「…………」


 だけど私が懸命に話しかけたとて、彼女は応えてくれない。

 術者が気絶したことで、魔法陣の制御が崩れたのだろう。エーデルガルドの身体に楔のごとく絡んでいた黄金の茨がハラハラと消えていく。


 それでも、彼女は私をマジマジと見下ろすだけ。

 せっかく助けてあげたのだ。もう少し反応がほしいところである。


「安心してよ。皇子はちゃんとここに繋がっていた部屋に寝かしつけてあるよ。ちょーっと首筋にコツンとさせてもらったけどね。これでも武術にも覚えがあるから、我ながら上手にできたと思うし……その後はポチに任せてきたから、そこまで急がなくても大丈夫」


 なんて話しても、彼女の耳にはまったく届いていないようだ。

 代わりに、一方的な質問が返される。


「そなたは……一体、何者だ……?」


 エーデルガルドの姿をした少女。

 私だって、かつては国で一番と称される将だったのだ。

 たとえ姿が彼女そのものであっても、彼女が纏っていた魔力が別人レベルで変質したことくらい、察せられますとも。


 目の前の黄金の目をした少女は、エーデルガルドであって、『エーデルガルド』ではないのかもしれない。


 だからこそ、私は私の知る『エーデルガルド』に再び(・・)名乗ってあげた。


「私はノア=シャルル。あんたの嫁になりにきた女だよ」

「そうか……我の嫁か」


 彼女は、くつくつと笑う。

 解かれた両手で自身の身体を撫でて確認する様は、ひどく楽しそうだ。


 ……そうね。私よりも女らしい身体しているもんね!

 なんて、軽口を返す暇はなく。


 突如発せられた殺気に反応できたのは、まさに経験の賜物。

 一足飛びで退けば、私が立っていた床に亀裂が走る。

 視線をあげれば、床に下りた彼女が一歩動いただけだった。


「ならば、手始めにそなたを愛してやろう。そなたの魔力は、ひどく美味しそうだ」

「へぇ……それは言葉通り、食べられちゃうってことなのかな?」

「さて、どうだろうな? ただ、わたしがひどく腹を空かせていることだけ伝えておこう。この身体は魔力の器としては大層立派だが、些か燃費が悪いらしい。元の人間が手加減していたから支障はなかったが、我が存分に振るえば、すぐに尽きてしまうだろう」


 その発想は、まるで人間のものではない。

 わたしは固唾を呑んで「そもそも」を訊いてみる。


「あんたはどちら様なのかな?」

「そなたらと変わらぬ、魔を司る存在よ。ただ、そなたらは昔から我らをこう呼んでおるな――悪魔、と」


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