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悪役戦姫ノア、男装皇帝に嫁入りする  作者: ゆいレギナ


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39話 結婚式前の余興


 ◆


 さて、エーデルガルド皇帝が消えた。


「新郎に結婚式の直前に逃げられるとか……花嫁としてツラすぎない?」


 そんな冗談を口にしたとて、笑い飛ばしてくれる相手もいない。

 私は敵国に嫁いできた、哀れなお姫様なのだから。


「――ということで、たとえ新郎ぶっとばしても、お兄ちゃんに怒られないよね?」

「わん」


 ポチは今朝方、私のもとへ戻ってきた。

 それでも身体はツラそうなので、『一緒に城内全部敵に回して暴れようぜ!』と誘うには忍びない。私は優しい飼い主なのだ。


「ポチは私の身代わりね。外から人の気配がしたら、ベッドに潜ってシクシク泣き真似とかお願いできるかな?」

「わふん……」


 だけど、ポチは不満顔である。頬を膨らませるポチはやっぱりかわいいけど、ここで絆されてしまえば飼い主失格。私は心を悪魔にして、ポチのメイド服と、私のネグリジェを取り替えようとした。デザインが違うとはいえ、私のドレスや軍服よりは潜入しやすいだろうからね。


 だけど、ポチを脱がそうとして気がついた。


「あれ、ポチの着ている服……これアニス帝国のメイド服だよね?」

「わん」

「ポチの服がボロボロになったから、代わりにくれたとか?」

「ううう」


 すると、ポチがもう一着のメイド服を見せてくる。いつものポチの服だ。パッと見で破けた箇所も見つけることができない。まあ、ポチはお裁縫が得意だからね。自分で直したのだろうけど……じゃあ、このアニス帝国のメイド服は?


「……どっかで拾ってきたの?」

「わん」

「もしかして、こうなることを予見してた?」

「わん!」


 ポチは得意げに、頭をぐりぐり押しつけてくる。

 褒めろって? 

 いくらでも褒めますとも!


「おー、よしよし。さすが私のポチだね。いいこだねー」

「わふん」


 私が頭をうりうり撫でると、ポチも嬉しそうだ。

 よしよし、平和。だから余計なことは考えない。

 なんでこんな珍事をポチが予想できたのなんて考えない……。


 そして、私に貸すためなら、わざわざポチがアニス帝国の服を着ている必要なくない? とかね。ペットらしくマーキングかな? それとも他の衣装もかわいいでしょって私に見てもらいたかったのかな? どちらにしろかわいいね? やっぱり私にはお喋りしてくれないけどね。


「だから、自慢してやらないと」

「わふ?」

「なんでもないよ」


 このポチのかわいらしさを見せつけて、私のほうが仲いいんだぞ~、と、自慢したいのに。


 エーデルガルドは何を考えているんだか?

 こんな紙の一切れで、私が喜んで帰ると思うのか?

 私が帰ったところで祖国の者から罵倒されたあげく、牢屋生活が待っているだけなのに?


「そもそも、私がその程度の覚悟でやってきたと思われていることが納得いかないよね!」


 彼女は忘れているのではなかろうか。


 私は血花のノア。数々の戦場を生き抜いてきた女である。

 戦場ではもちろんのこと、嫁ぎにきた初日から決闘するような女だぞ?


 こんな離縁状、宣戦布告ととるに決まっているではないか。


「売られたケンカは買わないとね」


 そして経験者として教えてやろう。

 一度飼い始めたら、ペットも花嫁も、最後まで責任を持たないといけないんだぞ。


「私を陽の下に出したこと、後悔させてやる」


 私はパキパキとこぶしを鳴らす。

 心の中のお兄ちゃんが何か叫んでいるけど、気にしない。

 久しぶりにたくさん身体を動かせそうな予感に、胸の高鳴りが止まらないのだから。




 我ながら、メイド服も似合っていた。髪型も三つ編みに変えてみた。すれ違う貴族や使用人たちも、私が『ノア=シャルル』だと気づく気配がない。


 自画自賛しながら、まず向かった先は兵士らの屯所だった。


「皇帝がいなくなったって噂だけど……本当なの?」

「それなぁ。おれら裏門の見張り当番だったけど、だれも出入りなかったしなぁ……表門もそうだったんだろう?」


 シャルル王国のときもそうだったけど……兵士なんて男所帯にメイドさんが来たら、みんな優しくしてくれるものである。簡単に警備記録を公開していいのかと思いつつも、こういうときはありがたい。


「だから結婚式の余興のためにお隠れになっているとかじゃないか?」


 なかなか呑気な国民性だ。

 だけど、今に限ってはそれに救われているところもあるだろう。


 エーデルガルド皇帝が消えたということで、城内が騒然としているのは事実。しかも明後日の結婚式のために、多くの来賓も来ているのだ。お国の大ピンチが来賓らに露呈すれば、帝国の信用は失墜。三十年にも及ぶ長き戦争に勝ったとて、そんな栄光などあっという間に瓦解するだろう。


 しかし、それが余興かも、なんて噂も流れるならば、来賓らの明日への期待が高まる演出のひとつとなる。ちょっと楽観視しすぎかもしれないけどね。


「ま、本当に余興なら、私に知らされないというのもおかしな話なんだけど」


 私は屯所を出てから、足早に次の目的地へ移動を開始する。

 さて、正直屯所ではまともなヒントが得られなかったぞ。


「こういうときは別の観点で考えてみよう」


 誰に告げるべきでもなく、私は独りごとを言いながら頭を整理する。


 皇帝がいなくなって、一番得をする者は誰か。

 私は適当にお茶などを揃えて、そいつの部屋に向かってみることにした。



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