3話 父親の首を落とした姫
大国歴八八九年。
私、ノア=シャルルは、シャルル王国の第三王女として生誕した。
他の兄弟と年が離れた末っ子の私は、身体を動かすのが大好きな子どもだったらしい。
だけど、時代はシャニス大戦の真っ只中。
運動=戦闘になるのは、王女だからこそ必然だった。
『いつ何時、姫の命を狙う者が現れるかわかりませんから』
最初は当たり前のように護身術から。
だけど私の覚えが早いとわかれば、それは護る技から、倒す技へ、そして殺す技へと当たり前のように繋がっていく。
結果、私は十三歳にして戦場に立つ『戦姫』となった。
当たり前だけど、決して私は人殺しが好きなわけではない。
ただ身体を動かすのが好きだっただけ。
机の上でお勉強するより、外で走るほうが好きだっただけ。
それだけを時代が許してくれなかったのである。
だけど、父上は違った。
『いいか、ノア。戦争は儲かるんだ!』
いや、知らないから。
もちろん為政者として、お金の管理や運用はとても大事なのだろう。
『その点、おまえは兄弟の中でも一番優秀だな! 女だてら、将として有能だ! シンボルとしてこの上なく有益。新規開発武器をおまえが使えば、他国の貴族どもはこぞって輸出の話を持ちかけてくる!』
私はただの戦争シンボル。
金儲けサイクルのために、隣国に戦争をふっかけ続け、人の命を犠牲に経済を回す。金が動かなけば、王族貴族のみならず、国民が食べていけない。国が豊かになるということは、国民が豊かになるということ。そのこと自体は、為政者として大切な心積もりだ。
よく父上は私たち子どもにこう説いていた。
『戦争が一番効率的なビジネスなんだ!』
だけど、私は知らない。人の命より大事なものが、私にはどうしても理解できなかった。
だから、私は父の首を斬り落とした。
私は勉強が嫌いだ。身体を動かすほうが好きなんだ。
この愚か者の首一つで、助かる命がたくさんある――そう判断したとき、私は躊躇うことなく父上を殺していた。
あとは簡単だ。この首を対価に、敵国の皇帝にこう提案すればいい。
『これで、戦争を終わらせてくれないかな?』
その結果として、私は一年ほど実家(シャルル城)の牢屋に入れられているんだけどね。
理由は簡単。私は立派な反逆者だからである。
それはそうだ。だってわたしは、国王の首を敵国に捧げた張本人。
即座に打ち首にならないことが奇跡である。
現に、そんな意見も官僚たちから多く挙がっていたらしいが、兄である新国王が頑張ってくれたらしい。下手に外に出るより、反逆者として牢屋に入れておくほうが安全だろう、とのこと。ありがと、お兄ちゃん。兄弟の中で一番苦労性で、なんやかんやの王位を継ぐことになってしまった次男坊のお兄ちゃん。お兄ちゃんなら、きっといい王様になるだろうと、私はずっと信じている。
そんなこんなで、戦争の疲れを薄暗い牢屋の中でぐーたら癒していたある日、お忙しいはずのお兄ちゃんが慌てて牢に駆け込んできた。
『ノア、今度は何をしたんだ!?』
『言われた通り、牢屋生活を満喫しているけど?』
『なら、なんでアニス帝国の皇帝から婚姻を申し込まれてるんだよ!』
『なんですと?』