27話 どうか少年が
改めて、セべクからもらった剣を見る。
一度見たら忘れられないような、大胆な装飾が施された剣だ。実際に持ってみると見た目ほどの重さはなく、実用性も兼ね備えた見事な逸品であることが窺える。
「でも、やっぱり見たことないんだよなぁ……」
決闘なら、何度も経験してきた。
当然、将たちは各々思い入れのある武器を使っており、いい剣や変わった武器を使用する者たちが多かった。私は遺品収集する趣味はないから、終わったあとに少しだけ観賞させてもらい、遺体と共に返していたけれど。
その中で、やはりどんなに記憶を巡らせても、この剣を見た覚えもないし、『ヘイムダル』なんて名前を聞いた覚えがない。
「でも……たしかにノア=シャルルが父の仇って……」
こちらを一度も振り向かないセべクが何度も言っていた。
近衛兵団長まで務めた、立派な父の仇だと。
思い込んだら一直線な男のようだが、父の仇の名を間違えるほどバカな男とは思えない。そのことを考えながら、私が踵を返そうとしたときだ。
「うおっ、いたの!?」
なにかにぶつかる。
それは私の腰より低い位置。癖毛の金髪が愛らしい三歳の皇子ニーチェ=フォン=アニスが私のすぐそばに立っていて。
い、いつの間に?
こんなにそばに近づかれて、私が気が付かなかったの?
血花のノアの、私が子どもの気配に気が付かなかったと!?
無駄にドキドキする私をよそに、ニーチェ皇子の表情は暗い。
彼が見つめる先は、セべク=ヘイムダルの背中だった。
「お、皇子も見送りにきたの?」
「うん……まぁ、そんな感じ」
言葉少なく、セべクが旅立った先を皇子はずっと眺め続けて。
ふたりはけっこう仲がよかったのだろうか。たしかに、セべクは子どもウケがいい性格のようにも思える。やいやい振り回すのに、あのうるさいのは打ってつけだっただろう。
「隠れてないで、何か声をかけてあげたらよかったのに」
友達とのさよならが寂しいのは、大人も子どもも一緒だ。
昨日の様子からしたらワンワン泣きわめいてもおかしくないのに、いつになく大人びた様子でぼそりとつぶやく。
「あのおにーたん、元気にやっていけるかなぁ?」
「いけるでしょ」
私は即答すると同時に、皇子を「よっ」と抱き上げた。
「あの手のバカがどこでも一番長生きするよ。喧しいくらいにね」
「……そうだね。ありがと、おねーたん」
私たちはセべクの背中が見えなくなるまで見送っていた。
皇子は泣かなかったけど、代わりに門兵から鼻を啜る音がする。
これは、いつかエルと話す、なかなか楽しいネタになりそうだ。
そしてセべクが見えなくなってから、ニーチェ皇子がにぱっと笑う。
「それじゃあ、なにしてあそぶ?」
そう、さも当然のごとくニコニコと微笑んでくるから。
私は頭をウリウリと撫でながら、応えてやった。
「今日は絵本でも読もっか?」




