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悪役戦姫ノア、男装皇帝に嫁入りする  作者: ゆいレギナ


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22話 皇帝のともだち③


 しばらくして、ヘイムダル団長が『血花のノア』と決闘し、命を落としたという凶報が入った。


 その話を王の間で聞いたとき、わたしは思わず泣きそうだった。


 だけど、わたしは必死に堪えた。

 だって、わたしは皇帝なのだから。


 臣下の一人が亡くなった程度で涙を流すなど、許されるはずがない。

 わたしは誰よりも強くて、偉大な存在でいなければならない。


 ヘイムダル団長も、きっとそれを望んでいるはず――

 そう思い込んでいたとき、列の後ろのほうから、セべクがずいずいと前まで歩いてきたのだ。


「失礼します!」


 そして、わたしを抱きしめてきた。

 えっ、とわたしは固まった。あまりのことに、他の兵士らも唖然と動けずにいた。


 だって、彼が死去したヘイムダル団長の息子であることは、皆が知っていて。

 そんな彼が、誰よりも大粒の涙を流していたのだから。


「父のために、俺と泣いてくださりありがとうございますっ! こんなに……こんなに、父が浮かばれることもありませんっ!!」


 なにそれ。ずるい。ずるすぎる。

 そんなことを言われてしまったら……わたしも抱きしめ返すことしかできないじゃないか。


 彼の声量に合わせるように、わたしは震える声を懸命に張り上げていた。


「セべク=ヘイムダルに命じる! 死ぬな! そなたは何があっても死ぬな! 絶対にわたしが許さぬ! わかったな!」

「しかと拝命しましたっ!!」


 そしてわたしたちは、しばらく二人でボロボロと泣いていた。

 それを止める者は、誰もいなかった。

 

 ◇


 昨日ポチとドレスのトラブルの元となったメイドらは、裏で処分済みだった。彼女らの独断だったと自白がとれたのだ。なのでノア姫とセべクはまったくの別件で『手合わせをした』ということにした。


 果たして、今回も手合わせで済ませることができるだろうか?

 私はヨハンと足早に中庭に向かいながら、小さな声で尋ねる。


「ニーチェ皇子の誘拐を、本当にノア姫が企てたと思うか?」

「わかりません。ただ、長年敵だった国の姫……という素性を変えようがありませんので」


 二人は中庭で決闘しているらしい。


「《瞬足(リグ・バニッシュ)》!」


 セべクの呪文がここまで聞こえてくる。

 ひと目にも着く場所だ。来賓客もどんどん到着し始めており、内密に済ませることは難しいだろう。


 いざ現場に到着すると――ノア姫の前で、セべクが膝をついていた。

 ノア姫の呪文は聞こえなかった。

 それでも、彼女の赤き剣先はセべクの喉元を貫こうという位置で静止していて。


 見なくてもわかる。

 ノア姫の圧倒的な戦闘センスの前に、セべクは為すすべもなく敗北したのだ。


「なぜ殺さん! 僕の父の首は落としたくせに!」

「ここが戦場じゃないからだよ。勘違いとはいえ、私を倒そうとするのは、エーデルガルド皇帝に対する忠義ってやつでしょ?」


 ノア姫は手から剣を消して、白銀の髪を耳にかける。

 そして地面に落ちた大剣を拾い、セベクに返していた。


「立派だね。そのままがんばってお父さんを超える騎士になりなよ。そのときになっても私の首が欲しかったら、いつでもかかっておいで。何度だって返り討ちにしてあげる」


 ノア姫がにっこりと笑っている。


 なんて人格者なのだろう。

 二日も連続で冤罪を疑われておいて、二回とも笑って許している。

 こんな少女が、わざわざ敵国の真ん中で皇子を誘拐しようとするはずがない。


 そう、判断してしまったからこそ――わたしは決断をしなければ。

 わたしが柱の影で立ち止まっていると、ヨハンに背中を押される。


「エーデルガルド陛下」

「わかっている」


 貴賓らの目もある以上、これだけの騒ぎを起こしたなら、どちらかを裁かなければならない。事実、皇子が誘拐されそうになったという醜聞は広まってしまったのだ。のちほど真犯人の捜索はもちろんだが……この騒動の後始末はしっかりとつけなくては。それこそ、シャルル王国を二度も侮辱したと同義なのだから。


 それでも、セベク=ヘイムバルは私の大切な友達なのだ。

 思い込みが激しく、声がうるさいけれど……根がすごく優しい、大事な大事な友達なのだ。


 動けずにいるわたしを、ヨハンが耳元で促してくる。


「皇帝陛下……ご決断を」


 サラシで締め付けられた胸が苦しい。

 それでも――わたしはアニス帝国の皇帝。

 戦後まもない皇帝として、国の平和と繁栄のために、最善の選択を――


「セべク=ヘイムダル。我が妃に剣を向けるとは何事か!」


 柱から出たわたしが声を張ると、その場の視線が一気に集まる。

 その中で、セべクがいち早く膝をついて頭を垂れていた。


 わたしは顔を歪ませずに告げることができていたのだろうか。


「この国から去れ! わたしが生きているうちは、二度と帝国に足を踏み入れることを許さん!」


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