21話 皇帝のともだち②
だからといって、人間誰しも向き不向きがある。
三年くらい経っても、わたしは子ども用の木刀をまともに振ることすら叶わなかった。
『残念ながら……エーデルガルド様には、向かないかもしれないですね……』
『諦めることはない! おれがいくらでも訓練に付き合ってやる!』
セべクは懸命に励ましてくれたけど、ヘイムダル近衛団長は、帝国一の剣豪とも呼ばれる人物だ。そんな達人がダメというなら、ダメなのだろう。
団長はセべクに話しているようで、実際はわたしに言っていたのかもしれない。
『セべク、人生は呆気ないほどに短いぞ。その短い時間を苦手なことに費やすより、得意なことを伸ばすために使ったほうが有意義でしょーが。現にエーデルガルド様は魔法に長けていらっしゃる』
それでも、わたしはやっぱり唯一の友達と、同じことをしていたくて。
視線を落としていると、セべクが「ふんっ」と鼻を鳴らした。
『ならば、おれが前衛としてきさまが詠唱する時間を稼いでやろう。まちがってもおれに攻撃魔法を当てるなよ!』
どうやら彼の中では、わたしが一緒に騎士になることが既定路線だったようで。
ただ剣を使う前衛騎士と、魔法を使う後方騎士として、役目が少し変わっただけのこと。
妾腹の姫だからこそ、騎士ならなれるかも?
一緒に戦う未来を夢見ることは、わたしの生きる目的となったから。
その一年後、魔法の勉強に専念したわたしは完全無詠唱魔法の発動に成功した。アニス帝国で、完全無詠唱魔法を扱える魔法士が誕生したのは百年ぶりの快挙らしい。しかも、わたしは当時まだ六歳。妾腹の娘として公に出ることはなかったものの、今後も魔法研究に専念するように父である皇帝から勅命を受けた。
戦場に出すべきという意見もあったらしいが、皇帝は頑なに拒否し続けていたのだという。
ある日、ヘイムダル団長が、わたしにこっそり教えてくれた。
『親としての気持ち、私もすごくわかります。姫様はちゃんとお父様に愛されているのですよ』
しかし、わたしが魔法の研究で引きこもるたびに、セべクは少し寂しそうにしていた。
そのころには、わたしがきちんと『皇子』であること、だから戦場に出るのは最後の最後であるということを、セべクなりに理解していたらしい。
『ふん、きさまが呑気に研究していられるよう、おれが帝国を守ってやる!』
最低でも月に一度は会いに来てくれたセべクが、そう応援してくれたから。
その頃、わたしは再び髪を伸ばしていた。メイドの力を借りなくても、自分のことを一通りできるようになったからだ。贅沢とは無縁ながらも、自分なりに身なりを整えるのは好きだった。
母は皇帝を一目惚れさせた踊り子なだけあって、とても美しい人だったから。行方不明になった母の面影を追いかけていたのかもしれない。
だけどセべクは研究に勤しむばかり、髪も伸びたのだと思っていたらしい。
『引きこもってばかりいるからとだらしない。髪くらい切れ! 見ているこっちが鬱陶しいっ! きさまにできぬのなら、おれが切ってやるっ!』
そんなセべクとの追いかけっこに、やっぱりヘイムダル団長が慌てて飛んできて。
団長にげんこつをもらったセべクが、いつも以上にむくれていたりして。
わたしはそんなふたりにケラケラと大笑いして。
だから、わたしは余計に引きこもることとなる。
前代未聞の魔法の力を込めた道具の開発を始めてみたりと、セべクが怪我をしないで済むように、必死に魔法の研究を進めたのだ。
そんなセべクとの関係は、ずっと変わらなかった。
わたしが皇帝に即位したときにさすがに変わるかと思ったが、兵士見習いとして城の警備にあたっていたセべクはセべクだったのだ。
『父が貴様が皇帝になるために後押ししたのだろう? 当然だ。貴様は、俺が唯一心を許した友なのだからなっ! 安心して、俺に守られているがいい!』




