17話 戦友とかくれんぼ①
子どもは好きでも嫌いでもない。
というか、自分より年下の子どもとまともに遊んだ経験がない。
だから、知らなかった。
「じゃあ、つぎはぼくがかくれるね~!」
「待って……ちょっと休憩しない……?」
「やだ~~」
そして、三歳児が駆けていく。
遊び始めて三時間。ニーチェ皇子は走りっぱなしだった。
厳密にいえば、彼が隠れている間は休憩時間なのだろうか。対して、私が隠れると彼はすぐに私を見つけてしまうから、休む暇がない。
だって、いい大人が見知らぬ城内で、ほどよく隠れられる場所なんてどこにある?
さっき本気で使われてなさそうな倉庫の戸棚に隠れたら、びゃーびゃー泣かれたんだが?
まぁそれでも、たしかに王宮内と城内の一部の位置は、この三時間でかなり把握できた気がする。あと、他にも利点がもうひとつ。
「お姉さん、いつもこんなですか……大変ですね……」
「お気遣い……ありがとうございます。慣れた……と言いたいところですが、一向に慣れず……ごほんごほん」
そう話しながら一緒にゼーゼーする相手は、ニーチェ皇子の世話役だ。
二十代後半の落ち着いた風貌の女性である。皇子の世話を任されるくらいだから、きっとどこぞの名家の令嬢なのだろう。走り方も品位が残りすぎており、いつから勤めているか知らないが、この仕事でとても苦労していることが窺える。
そんな戦友と共に、今度向かう先は王宮の隅にある部屋。
「ここは何の部屋?」
「側妃様が使う部屋でございます……前に使っていたのは、エーデルガルド陛下の母君かと」
「今はもう……亡くなっているんだよね?」
「急にお姿が見えなくなったとのことで、詳細は不明なのですが……陛下が幼いときだったと」
「ふーん……」
そんな部屋は、帝国の城の中でも、特に物が少ない部屋だった。
その中で、花瓶に飾られた真新しい花を見るだけで、この部屋を管理させている人物の優しさが窺える。
同じテーブルに茶器セットも置かれていた。缶の蓋を開けば、茶葉から蜜のような甘い香りがした。今もなお使われているであろう、新鮮な香りだ。
ま、今は三歳児とかくれんぼ中なんだけどね。
「さーて、皇子はどこかなー?」
なんて白々しく言ってみれば、部屋の隅からガサゴソと気配が動く。
今度は暖炉の中に隠れたらしい。チラチラとこちらを窺って隠れ切れていないのがまたかわいいね。でも、暖炉の中って危なくないかな。今は暖炉と無縁の季節だからいいけどさ。
「こーら。暖炉の中は汚れるよ?」
「ばあっ」
致命傷だ。あまりのかわいさに、私の気力はもうゼロだ。
こんなにしあわせな戦場があっていいのだろうか。かつて戦場で私が散らせた兵士たちは、棒読みで「わー、びっくりしたー」と下手な演技する私を見て、どう思うのだろうか。
それでも一緒にゼーハーしている世話役さんは、あたたかく微笑んでくれた。
「ごめんなさい。皇子の服を汚しちゃって」
「いつものことなので大丈夫ですよ」
「ほんとーに毎日おつかれさまです」
心からの労いを告げながら、せめてと皇子の服を掃おうとするも……案外汚れてないな。掃除が行き届いているということか。
「ここはぼくの絶好のかくれんぼポイントだからね! しっかりおぼえておくように!」
「はいはい。ありがたきしあわせー」
「ところで、おねーたんは悪魔って知ってる?」
皇子からの突然の問いかけに、私は思わず小首を傾げた。




