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悪役戦姫ノア、男装皇帝に嫁入りする  作者: ゆいレギナ


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16話 初夜の翌朝


 ◆


「ぎゃああああああああああ!」


 起きたら魚介臭かった。しかもベッドのシーツに血糊がついている。


「あの皇帝、ほんとにやりやがった……」


 いやぁ、皇帝が女だったということにもビックリだったけど、本当に結婚式前に初夜しちゃったよ大作戦を決行されたほうがビックリだ。バレたんだからやめようよ。あんなかわいい顔して、肝が据わりすぎなんだわ……。


「末恐ろしい王様だわぁ……」


 当然、私がそんな大声をあげたら、ポチが慌てて部屋に駆け込んでくる。

 そして臭いとシーツの染みに、今まで見たことないくらい顔をしかめて鳴いた。


「わん……」

「あはは……どうやって弁明しようかなぁ……」


 うん……あの、いくらペット相手とはいえ、こういうことは知られたくなかったんだけど。しかも実際は何もしてないわけだし。だから余計に事後を勘違いされるなんて居たたまれない。これを城中に知らしめるなんてもってのほかだ。


 でも、これも元敵国のアニス帝国で、私が、そしてポチが、少しでも安全に過ごせるようにするための配慮なら……。これも……ポチのため……。


 私は震える声で、なんとかポチにお願いした。


「とりあえず、お城のメイドさんを呼んできて? シーツを……取り換えてもらいたいからさ」


 昔、ちょっとした噂を聞いたことがある。

 どこかの国には、王様たちの初夜の証の染み付きシーツを国民に見せびらかせるように飾る風習があるらしい。理由は『お世継ぎが生まれるかもしれないぞー、やっほーい!』というお祝いと、『血が出るということは妃が処女だったということ。ゆえに生まれてくる御子は正統なる王様の血筋を引くものである!』という証明になるというのだ。


 願わくば、アニス帝国にこんな恥ずかしい風習がありませんように。

 神様なんて信じてないけど、こんなに祈ったのは生まれて初めてである。


 あまり待つことなく、ポチがメイドさんを連れてきてくれた――かと思いきや、メガネをかけた生真面目そうな男がやってきた。いけ好かない宰相、ヨハン=フォン=マイヤーである。


 そいつは私を汚物を見るように一瞥したのち、粛々と頭を下げてくる。


「皇帝陛下がお呼びでございます」




 着替えてから私だけ連れていかれた先は、皇帝の執務室だった。

 ポチも連れていきたかったが、ポチも城の侍女たちに呼ばれているらしい。これからの生活や結婚式の打ち合わせなど、私の侍女としての仕事が山ほどあるらしいのだ。


 皇帝の執務室に、これまた煌びやかさはない、本当に本と書類で埋め尽くされた実務のための部屋。壁際にちょこっと置かれた細やかな茶器セットだけが、唯一の癒しだろうか。


 そのそばで、皇帝は嬉しそうにお茶を淹れていた。


「朝から呼び立ててすまないね。まずお茶でも飲もうか」

「悪魔の趣味はお茶なのかな?」


 あんな嫌がらせのようなドッキリを実行してくれたのだ。悪魔呼びくらいさせていただかないと気が済まない。


 そんな私に、皇帝エーデルガルドは一瞬目を丸く見開いて。

 だけどそんなあどけない顔は、すぐに皇帝の余裕然としたものに変わる。


「お茶はわたしの数少ない趣味だ。だが、その話はまた夜にしようか。子どもの前だ」

「子ども……」


 まぁ、さっきから気配はしていたのだけど。

 床に積まれた書類の山が、バサッと散らばる。

 その中から出てきたのは、かわいらしい少年だった。ふわふわの金髪に、空のような青い瞳。そばかすがチャームポイントの元気いっぱいの少年は、素行のわりにとても上質な服を着させられている。


 だけど案の定、その表情や口調は年相応のゆるいものだった。


「なんのはなし~?」

「おにーさんたちが仲良しだって話だよー」


 皇帝はやさしい口調で応えてから、床に座りっぱなしの少年を立たせる。


「彼はわたしの甥のニーチェ=フォン=アニスだ。あなたには早く城に慣れてもらいたいのでね。彼にノア姫の案内役を任せることにした」

「おねーたんがぼくとあそんでくれるのー?」


 どこをどう考えても、私に皇子の子守りをしろって話ではなくて?

 実際、ニーチェ皇子とやらは、私の後ろにいたヨハンに突撃しはじめた。どうやらメガネを借りたいらしい。どんなに背伸びしても顔まで手が届くことはないものの、ひ弱そうなヨハンは今すぐ押し倒されそうな雰囲気だ。あんなに愛想笑いを浮かべ続けていたヨハンがあからさまに嫌そうな顔をしているのは、なかなか見ものである。


 私がクスクスと笑っていると、エーデルガルドが告げてくる。


「ちなみにヨハンの発案です。わたしたち、今日から来賓の歓迎に忙しくて」

「どうぞ……よろしく、お願いいたします」


 まぁ、彼らの仕事を私が代わることはできないしね。やりたくもないし。

 お偉いさんに挨拶なんてもっと面倒だ。

 仕方なし、私はニーチェ皇子を後ろから持ち上げる。


「それじゃ、朝ごはん食べたら、かくれんぼでもする?」

「かくれんぼー♪」


 にぱーっとした笑顔が、まるで太陽のように明るい。


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