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悪役戦姫ノア、男装皇帝に嫁入りする  作者: ゆいレギナ


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14/49

14話 男装皇帝の朝①

 ◆


「本当に寝た……」


 その後、敵国から嫁いできたばかりのノア=シャルル姫は、本当に寝た。

 ぐっすりだ。


 わたしもまだ同じベッドにいるというのに、本当にすやすや寝息を立てている。

 彼女の目の前で手を振ってみても、まるで起きる気配がない。


「さすが戦姫……」


 戦士たるもの、いつどこでも寝ることができることも才能の一つという。

 戦場を生き抜いてきた姫の寝顔は、とてもあどけない。


「わたしが守らなくては」


 年下にして、真の英雄。

 父親の首を、敵国の王に捧げにきた、誰よりも優しく気高い少女。

 わたしは生まれてこの方、こんなに尊敬した人物はいない。


 そんな少女が、戦後も不遇な日々を送るだなんて、許されるはずがない。

 反逆者として一生牢の中で過ごすなんてもってのほかだ!


 これはわたしが王だからではなく、ひとりの人間としての敬意だ。

 彼女は誰よりも幸せになる義務がある。


「ま、女同士で結婚させられる時点で、いっぱいごめんなさいですけどね」


 そんな姫に寵愛を授けるべく、わたしは有言実行、小細工を始める。

 熟成されたのか、思っていた以上に強烈な臭いになってしまった。

 だけど姫は、わたしが部屋を出るまで目を開けることはなかった。


 ――が、部屋を出た瞬間、わたしの首筋に刃物が添えられる。

 わたしの目の前でぴょこぴょこと動くのは、犬のようなモフモフ耳。

 その愛らしさとは裏腹に、メイド服を着た彼女の視線は、獲物に向ける獰猛な獅子のようだった。


「ノア姫の悲鳴が少しでも聞こえたら、殺そうと思ってた」

「むしろ、笑い声が聞こえた?」


 名前はたしか『ポチ』だったか。きっと、これも本名ではないのだろう。

彼女はノア姫が唯一連れてきた侍女だ。報告では一切人語を喋らないと聞いていた。


 が、ふつうに話せるではないか。


「きみは話せないと聞いていたが?」


 丸い頭を撫でようと思わず手を伸ばすと、その手が容赦なくひっかかれる。


「喋らないだけ。ポチはノア姫のペットだから」

「彼女はいいな。こんな大切に思ってくれる相手がいて」


 わたしが本音を漏らすと、ポチが少し視線を逸らす。

 恥ずかしいのだろうか。かわいいね。


 人間をペットにするなんて道徳的にはどうかとは思うが、少しばかり羨ましいとも思ってしまう。わたしにも側近はいるけど、ヨハンはここまでわたしを心配してくれるだろうか。


 わたしはポチを安心させるべく、ゆるやかに笑ってみせた。


「指一本触れてないから安心して? でも、そのことは他の人にはナイショだよ?」

「ポチ、あなた嫌い」

「そっかぁ。まぁ、気長にがんばるよ」


 妻になる女のペットだ。当然わたしもかわいがりたいし、どうせならちょっとは懐かれたい。だけど道は遠そうだと苦笑しながら背を向けても、ポチは攻撃もしてこないし、追ってもこなかった。今はこれで十分だろう。


 そして、わたしは執務室へと向かう。

 ゆっくりと陽が昇ってきて、朝当番のメイドたちが頭を下げてくる。


 執務室の中では、すでにヨハンが仕事を始めていた。


「おはよう。いつも朝からご苦労だね」

「おはようございます。その御手の怪我は?」


 さすがヨハン。なんて目ざとい。

 わたしは笑みを隠さず、手の引っ掻き傷を擦ってみる。


「じゃれてたら引っ掻かれちゃった」

「お楽しみのようで何よりでございます――が、バレてませんよね?」


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