11話 夜更けの訪問者②
その問いかけに、私は小首を傾げる。
「血に宿る魔力を詠唱と《キーワード》でイメージ通りに具現化するってのは一緒でしょ?」
セべクの呪文も然り、今まで戦ってきた相手然り。
私の《真っ赤な薔薇》と同じ発動手順だったから、大きな違いはないはずだけど……私が気になるのは国ごとの違いより、彼自身の魔法だ。
「多くの魔法士は個人の特性にあった一種の魔法を鍛えていくことが多いけど……まさか、あんたはパーティーでの幻想魔法だけってことはないよね?」
ある程度の使い手となれば、類似性の高い他の魔法や、生活に便利な魔法などを覚える者もいるが、戦闘という点に特化した魔法士は、どうしてもひとつの魔法を極める必要がある。
イメージに慣れることにより、発現速度が変わるのだ。
それこそ私も魔剣を生むだけだったら無詠唱でできるし、セべクも詠唱はなく《キーワード》だけで超高速移動魔法を発動させていた。
お風呂に入りたくてお湯を沸かすために数十秒、なんなら数分使ったところで問題はないけれど、命のやり取りではそうとはいかない。まばたきする間に死ぬ可能性があるのだ。発動までの時間短縮がどれだけ重要かは、戦場に長くいた者ほど身に沁みてわかることである。
そんな人を殺すためだけに特化し続けた私に対して、皇帝はのほほんと告げた。
「そうだね。今まで発現を記録されている魔法の大抵は扱えると思うよ」
「まじですか……」
規格外の化け物に、私は視線を逸らす。
本当に彼女が戦場に出てきていたら、間違いなく、シャルル王国は焦土となっていただろう。
狙ったわけではないとはいえ、私、けっこう世界平和に貢献していたのでは?
……と、喜んでばかりいられないのが複雑な乙女心。
それなりに『血花のノア』として私は強いという自信があったからなぁ。
プライドが折れるに近い感覚に乾いた笑みを浮かべていると、皇帝がゆるく目を細めてくる。
「幼い頃から魔導書ばかり読んでたからね。あと趣味は妄想ってところか。そんな引きこもり趣味が国の役に立てる日が来るなんて、びっくりだよね」
「あーはいはい。天才はすごいですねー」
「お褒めいただき、どうもありがとう」
「嫌みだっての……」
私は嫉妬で口を尖らせるも、皇帝はまるで気にせずグラスを差し出してくる。
「隣に座ってもいい?」
ちなみに私はベッドに座ったまま。
すなわち彼は『私と同じベッドに座りたい』と言っているのである。
そう問われて拒否するなんて、まさに負けを認めるようなものだよね。
なので私は一気にワインを飲み干してから「ご自由にどーぞ?」と虚勢を張ってみれば、彼は「ありがとう」とあっさり隣に座った。
「いい飲みっぷりだね。お酒は好き?」
「好きでも嫌いでもないかな。でも野宿するときなんかは温めて飲んでたよ。寒さで凍え死んだら元も子もないし」
「シャルル王国だと、未成年から飲酒していいんだっけ?」
「戦争中に不便だからって、そんな法律あっさりどっかにいったけど……アニス帝国では?」
「似たような理由で、十年くらい前に十五歳まで引き下げられている。でもしばらくしたら、元の二十歳に戻そうと思っているんだ」
たしかに戦時中もお酒で中毒になって、故郷に帰されていた人もいた。恐怖のあまりにお酒が進んでしまう気持ちはわからないでもないが……比較的子どもに中毒症状が出やすかった気がする。その末路は戦って死ぬよりもつらかったのではないだろうか。
そんな嫌なことを思い出していたときだった。
私はあくびが出ないように、奥歯を噛み締める。
なんだか頭がぼんやりしてきた。
経験上、私はお酒に強いはずなのに。
……あれ、なんか異様に眠いような?
しょぼしょぼするまぶたを擦っていると、その手をエーデルガルドが掴んでくる。
「美しい目に傷がついてしまうよ」
そっと肩を押され、ベッドに倒れる。
ふかふかだ。枕にポプリでも入れてくれているのか、花のいい香りがする。
このまま寝てしまえば気持ちいいだろう。だけど寝るわけにはいかない。
だって敵国の皇帝が私を見下ろして、すぐそばで微笑んでいるのだから。
「おやすみ、ノア姫」
子どものように頭を撫でられたのなんて、何年振りだろう。
薄れゆく意識の中で、私は最後にこう思った。
あーこれ、睡眠薬を仕込まれたんだな――と。




