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青を知る

新作です。今回の作品は一切の台詞を無で書き上げてみたいとおもっております。恐らく短編になると思っていますが、こちらも読んで貰えると大変嬉しいです。

僕はいつも視線が窓の外へ。

特に理由がある訳ではないのだが、気が付くと雲が流れる世界をただただ見つめているのだ。

何気ない、つまらない日常が凄く好きな僕は晴れた日の青と白の移ろう景色をゆっくりと楽しむ。

黒板がカツカツと忙しなく鳴る小さな世界から切り取られた果てしない広大な世界はどこか美しい。

窓が額縁となって僕に芸術を見せてくれるのだ。

左手の指が織りなす可愛い遊戯は楕円を描く。

小さな努力の証が心地よく指の上でダンスをする君はどう思っているのだろうか青色のペンが舞う世界。

扉からも黒板からも一番遠いこの席は特等席なのだ。

右手を頬っぺたに左向きに顔を外に向ければ右足は小さくリズムを刻む。

今日も僕は青を知る。

君が好きなな空色を見つめるのだ。

視界の端では水しぶきがあがる。

今年もジリジリと音を聞きながら涼しい風が心地よく右耳に隠したBGMが気分を上げる。

いつものこの汗ばむ季節に僕は青を知った。

いつも見ていた筈の青の美しさを知った15歳の青春は何処か落ち着かない。

君が好きな色を聞いてから僕は少し嬉しかったのかも知れない。

僕の好きな色と同じ色が好きな君、きっとこれはただの偶然なのだろう。

だけど運命を感じてしまった僕は単純な子供なのかも知れない。

不器用な僕が長かった前髪を短くきった理由を君は無邪気な笑みで尋ねてくるが、僕は素直に答える事は出来なかった。

4限目のチャイムが空腹を告げる。

もっと君を見たい、そんな下心しかない本心を胸にしまって、暑いからなんてしょうもない言い訳をする。

隣の部屋から毎日欠かさずに手提げ袋とトランプを片手にやってくる親友は何処か僕の変化に気付いているのだろう。

全てを見透かしているかのように隣り合う2つの机を囲んで君と僕と親友でババ抜きではしゃぐ。

こんな何でもない時間を大切にしたい僕は、きっとこの気持ちを隠したまま3月を迎える。

ババをひいた僕を見て腹を抱えて笑う親友の少し濡れた髪がゆれる。

それに釣られて君も笑うその笑顔に僕は鼓動が早くなる。

残り2枚のトランプを混ぜて君へと差し出す。

そっと裏向けにして正解が解らない問を君に投げかける。

眉間に皺を寄せて僕の目を見つめる。

キラキラした黒い瞳にセミロングのストレート。

空色のバンドで束ねたポニーテールが可愛く揺らしながら僕の瞳に君は答えを求めるが僕はそれには答えない。

目を伏せて赤くなった耳たぶが君を悩ませる。

これが、今の僕に出来る最大限の抵抗かもしれない。

ババに本当の気持ちを隠して君に渡すんだ。

君の指が僕に触れた時にばれてしまわないように全てをババのせいにする。

ずるい僕は結局君に負ける。

嬉しそうに机の真ん中に手札を投げる君はとても素敵だね。


少し肌が黒く焼けた彼に私は心が締め付けられる。

優等生で学年で人気者の彼は時折切ない顔になる。

きっとその顔の原因が私だったらいいのになんて考えてしまう私はずるい女なのだろうか。

少し寒い青色の空の下、ピンクの花びらが舞い散る季節の変わり目に私は彼に手紙をそっと渡した。

綺麗な透き通るような青い紙に思いを綴って勇気を出して差し出す。

少し驚きながらも彼は手紙を受け取って広げると少し時間をおいて丁寧にその手紙を閉じた。

少し目線を落として申し訳なさそうに私へ優しい言葉を投げかける。

実は答えは最初から知っていたのかも知れないが、溢れる気持ちを形にしたかった。

不思議な事に手紙を渡してから、彼との距離が近くなった。

いつも昼休みに小さな机を二つ並べて過ごす時間が私は好きだ。

彼の親友が机の隣にいるだけで新しい世界が生まれた。

15歳になって初めて同性以外で友達が二人出来た。

一人は絵がとても上手なあなた、もう一人は陸上部の彼。

肌の色が対極な彼らの間には小さく生まれた隙間に私は生きている。

私は肌が白いあなたが羨ましかった。

彼と仲良くなればなるほど私はあなたに勝てないんだと痛感してしまう。

私はあなたになりたいなんて本気で考えている。

いつも空を眺めるあなたは想像もしていないだろうね。

嘘が苦手なあなたの綺麗な瞳に私はどう見えているんだろうか。

彼の横にいつもあなたがいるのが何処か切なくついつい我儘をいってあなたを困らせる。

優しいあなたそんな私の我儘を聞いてくれるから余計に切なくなる。

こんな私が自分で自分が嫌いになる。

何気ない日常の生活の中で彼との距離が近くなり何も無かったかの様に振る舞う彼が私は嫌いだ。

嫌、好きなのだが嫌いなのだ。

好き、大好きだからこそ嫌いなのだ。

彼の目に私だけいればいいのになんて考えてババを持つあなたを睨みつけて私はトランプを引く。

負けず嫌いの私はやっぱり勝ちたいのだ。

たかがトランプでもあなたに勝てる事がちょっぴり嬉しい私。

彼が嬉しそうに一緒になって笑うこの瞬間を幸せと感じるのだ。

私は青を知る。

それは少し切ない青である。


心地よい水温が火照る体を包み込む。

笛の音に招かれて、勢い良く飛び込み水を切る。

透き通る水の青は、晴れ渡る太陽をキラキラと反射させて輝く。

俺は、この時間に頭を真っ白にさせる。

何も考えずにひたすら前進する、この瞬間は俺を悩みから解放してくれるのだ。

身体を動かしていると小腹が鳴る。

大きな時計を見れば11時45分、まだお昼までには時間があった。

唇を窄めて、空を見上げる。

2階の真ん中位にある窓から間抜けな顔を見つけると思わず笑顔が溢れる。

俺は奴とは古い付き合いになる。

奴は運動は嫌い、俺は大好き。

奴は手先が器用で、俺は下手くそ。

奴はお人好しで、俺は意地っ張り。

奴は動物が好きで、俺は苦手。

性格はまるで合わないのに、お隣さんの付き合いをかれこれ15年続けている。

そんな間抜け面の奴は俺にとってヒーローなのだ。

紅葉が色を変えた落ち葉が沢山ある幼稚園で毎週恒例の散歩道。

先生に連れられて、週に一回の大きな公園でのお遊び時間。

部屋に篭っていたい奴は嫌そうな顔をする。

そんな奴を俺は無理矢理外に連れ出す。

いつもの通り道で小さなワンワンと散歩ですれ違う。

ワンワンは何も悪気は無かったのだろう。

だけど急に吠えるワンワンに腰を抜かしてしまう。

怖くなって身体強張る俺を見て、奴はそっと俺を後ろに下がらせる。

ショートヘヤがよく似合う5才の奴はワンワンと俺の間に立ち塞がり、飼い主さんと嬉しそうに会話をする。

ワンワンは遊んで欲しくて吠えてたらしいのは後になって理解した。

それでも俺にとっては怖かったのだ。

リードに繋がれた猛獣と戯れ合うヤツがヒーローに見えた。

飼い主に拙い言葉で撫で撫でを許可して貰って先生からも許しを得た奴は猛獣と触れ合う。

俺に近寄りそうになるとさり気無く上手に庇い続ける。

この時、見上げた雲の形を俺は覚えている。

それからの奴はお人好しで引っ込み思案の性格のせいなのか良く同級生から虐められた。

その度に俺は奴の前に立ち塞ぐ。

あの時、俺が憧れたヒーローに俺もなりたくて本当は勇気がある事を俺は知っている。

月日の流れは早くて、気がつけば15歳の空は大きなソフトクリームをぷかぷかと浮かべている。

そんな昔の出来事に思いを馳せていたらチャイムが鳴る。

俺は急いで着替えて階段を駆け上がる。

いつもの弁当箱にトランプ一箱握りしめて、いつもの時間、いつもの場所で、奴を捕まえにいく。

俺は青を知る。

空なんて興味なんて無かったのに空を見つめる奴の青さを知るとどこかとても儚い。

彼女から貰ったお手紙の色と重なり淡い色で机を囲む。


笑い疲れた僕達はふと空を見上げる。

空は青く澄み渡り、白い雲は空をかける。

今日も僕は空に恋をする。

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