世界の担い手
暗い地下の部屋の中で、目の前に置かれているものをじっと見つめた。磨り減った石畳の上に横たわっているのは、朱い柄の抜き身の剣だ。見た目は自分の持っている剣となんら変わりはない。すらりと長い刀身の、柄に赤い石の填まった十字剣。
視線を少し逸らし、今度は赤い布の敷かれた祭壇の上に横たわったものを見る。それは娘だった。白の騎士服を纏った、勇ましい姿の娘。どんな光源のもとであれ、金色に美しく輝いていた髪は、服と同じように土に、血に汚れていた。肌は紙のように白い。眼は閉じられていて、胸の前で腕を組んでいる。
その下は、剣によって貫かれた深い傷の跡と大量の血の跡。
――死んでいる。
本当は葬儀のために棺に納められていなければならなかった。そこを無理を言って待ってもらい、こうしてひとり、娘の死体の前に立っていた。
お別れを言うだけのつもりだったのに。
『これは、彼女の役目だった』
先ほどいた人物の声がまだ耳に残っている。別れの最中に現れた彼は、その剣を差し出してそう言ったのだ。
再び剣を見つめる。二本の蝋燭の小さな光が、銀色の刃を炎の色に染めていた。
『世界の行く末を、選ばなければならない』
小さな手には不釣合いだった剣を置いていったのがつい先ほど。
『あなたは、彼女の代わりに役目を果たす？』
答えを待つことなく、声は去った。答えを出す時間を与えられたのだと知る。
「世界の行く末……」
彼女が担うべきであったものを、今自分が手にしている。託されたものを知って、何を求められているのかを知って、身震いした。
この刃を振り下ろせば、この世界は。彼女を殺したこのくだらない世界は――。
「…………」
剣の柄に手を伸ばした。それを掴み、握り締める。
握りしめた剣は軽かった。その剣を託された者が背負う使命とは裏腹に。
