邂逅
気まずい。今すぐこの空気を入れ替えたい。
というか、私は何か悪いこと言った?あと、その可哀想なものを見る目は何!?
「……一応聞いておくが、ティアナは龍崇者なんだよな?」
「そうだよ」
「んじゃ、次の質問。今のデライアンは叛徒と戦時中なのは分かってるよな?」
「それくらい知ってるわよ」
ゼクは目元を押さえて、やれやれと首を振った。な、何!?その反応は!!
「……わざと気がついていないふりをしているのか。それとも本当に気がついていないのか」
「ねぇ、その幻滅した目を止めてくれる?割と心を抉られるんだけど」
「はぁ……」
ゼクの二度目のため息。
その顔を引っ叩いてやろうと思ったけれど、まだ私の体は動きそうにない。無念。
私に膝枕をしている少年は、会って初めて見せた真剣な表情になった。
「ティアナ、俺はな——」
『ティアナ様っ!!!ご無事ですかっ!!!』
この声は——ひっ!!
(私に)投げられたナイフはギリギリでゼクに弾かれ、地面に音を立てて転がる。
瓦礫の山に降り立ったのは、雪のような銀髪を持つ私のお目付役。
美しい美貌も合間って、その姿はまるで天使のようだ。
「フィーナ!!」
「ティアナ様……説明をお願いできますでしょうか……」
一瞬だけフィーナの顔が歪むと、次の瞬間には無数の光の矢が私とゼクに襲いかかっていた。だからなんで私も!?
「なんだ?あれはお前の仲間じゃないのか?」
「そ、そうだけど……」
「なら、迂闊に反撃はできないな」
ゼクは左手を天に突き上げると、何もない空中を握りつぶす。
空中に一閃が走り、暴風。全ての光の矢が粒子状になって宙を舞った。
フィーナの驚いた顔が垣間見えた。
「化け物がっ……!!」
「化け物で結構。化け物未満の雑魚に負ける義理はない」
「ちょ、ちょっと!!ストーップ!!」
炎魔法を構築していたフィーナの腕が止まり、ゼクは優しく私の体を起こしてくれた。
うわぁ……フィーナ、すごく怒ってるよ。
何から説明すればいいのやら……。
「ティアナ様。まず、その男が何者かを教えていただけますか?」
「そうだね。えーっと、この子はゼク……じゃなくてシェル・ライゼク。さっき、空から落ちてきて、傷だらけだったから私が回復させた」
「シェル・ライゼク……?それに空から落ちてきた?」
「うん。あのさ、フィーナはこの名前に心当たりがないかな?」
フィーナは顎に手を当てぶつぶつ。
きっと何か頭に引っかかったのだろう。
私のお目付役兼メイドは、知識の量なら右に出るものはいない……と私は思っている。
ちょくちょく煽ってくるものの、基本は信頼のおける優秀な人物なのだ。
沈黙の時間が終わり、銀髪メイドは深く頭を下げた
「ティアナ様、長考してしまい申し訳ございません」
「ううん、全然問題ないよ。それよりも何か分かった?」
「はい。私の知る名前に一人、シェル・ライゼクという名前を持つものがおりました」
フィーナを中心に、空中に無数の炎の矢が展開された。え……どうして!?
「フィーナ!どうして魔法を紡いでいるの!?」
「フフフ……ティアナ様はとても変わっていらっしゃいますね。いや、今回の場合は優しさでしょうか?」
いつもとは違うフィーナの笑顔に背筋が凍る。
“怖い”という言葉では表せない。もっとはるか頭上に存在する別の感情。
笑顔のフィーナが手を挙げると、私たちの周囲を仮面をつけた神官達が囲った。
全員が黒いローブを身につけていて、胸元には白い龍の刺繍。まさか……。
「音もなく現れ、命令のままに敵を殲滅するデライアンの白い龍。もしや……あなた達が龍神官ですか?」
「流石はティアナ様。博識でございますね」
フィーナが手を叩いて褒めてくれる。いつもなら嬉しい。でも、今はそんな気になれない。
「どうして龍神官が!?ここには、あなた達の狙う外敵はいない——」
「いますよ。あなたの目の前に」
冷たい言葉が私の心を打ちつけた。
銀髪メイドが短剣を私たちに向けると、他の龍神官もそれにならって構える。
私の目の前。そんなの……そんなはずはっ……だって、だってゼクは!!
「叛徒は必ず殺しなさい。優しいティアナ様は叛徒に騙され、そして殺された」
「ま、待ってフィーナ!!まだ、まだ話し合える。だってゼクはこんなにも優し——」
「黙らせなさい」
冷たい命令が発令され、無数の刃と炎の矢が私たちに向けて放たれた。