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少年の膝枕

 意識が静かに覚醒していく。

 あれ?私……もしかして寝ちゃった?

 疲れていたからしょうがないとはいえ、いくらなんでも私は無防備すぎませんかね?

 というか、何やら後頭部が暖かい。

 地面に頭をぶつけた時に血を流したのかな? 

 いや、あの時は頭から倒れたはず。それに、不思議なことに痛みはない。静かに目を開く。

 まず目に入ったのは空を眺める少年。そして眩しい太よ……しょ、少年!?

 

「ん?ようやく気がついたか。このまま死んでしまったらどうしようかと思ったのだが、その心配はなさそうだな」

「………ほぇ?」


だ、誰!?私はこんな人知らないっ!!

意識を取り戻した私が最初に理解したのは、知らない少年に膝枕されていることだけだった。

吸い込まれるような黒い瞳が私を覗き込む。


「す、すみません!!すぐに降ります……」


すぐに起きあがろうとすると、少年に手で制された。解せぬ。


「今のお前は魔力が著しく枯渇している。それに、一時的に意識が覚醒しただけだから、今はまだ動けるわけではない」

「で、でも!!」

「一応、お前は俺の命の恩人なのだから、これくらいはさせてほしい。外敵が来ても護ってやるさ」


 外敵って……ここはデライアンのほぼ中央。

 ここまで叛徒が攻めてきたことは歴史上でも一度もない。

 まぁ……フィーナがいない今、一人でも私の身を護ってくれる人がいるのは安心できる。

 今あったばかりの人に頼るのも変な話だけど。


「あなた、名前は?」

「シェル・ライゼクだ。仲のいい連中はゼクって呼んでる。そういうお前は?」

「ティアナ。姓はないわ」


 幼い私はこの国に引き取られた。

 お父さんとお母さんの顔は知らない。フィーナ曰く『産まれて三日後に龍皇様の使いに引き取られた』らしい。

 国に引き取られた理由はいたってシンプル。

 私は——選ばれたのだ。そう、龍に。


 古くからこの国には”龍選者”と呼ばれる、人並外れた力を持って産まれる者がいる。

 当代の龍選者は歴代最多の三名。

 『武』の力に目覚めたメリッサ。

 『魔』の力に目覚めたフォル。

 『癒』の力に目覚めたティアナ。

 私を除く二人は戦場に出ているので、今この国に残っているのは私だけだ。文句はない。

 

「そっか。よろしくな、ティアナ」 

「よろしくって……私たちはすぐに別れる仲でしょう?」

「それは裏を返せば、別れるまでの短い時間は一緒にいるってことだ」

「それはそうだけど……」


 少年は、黙り込んだ私を見ると笑った。

 完全にしてやられた気分。

 動けない私は反撃もできないのだけれど。


「ティアナ、お前はここで何をしていたんだ?」

「何って……この見るも無惨な姿になった庭園で本当はお茶をするつもりだったの。そこにゼクが落ちてきて……」


 そういえば、一番肝心なことを聞きそびれていた。

 空から人間が落ちてくることは普通はありえないのだ。

 それに、落下の衝撃だけでこれだけの被害を出している。

 それほどの高さから落ちる理由も分からない。空は晴天。雷はありえない。

 私は膝枕を続ける少年と視線を合わせる。

 

「ねぇ……ゼク。あなたは、どうして空から落ちてきたの?」


 私の問いかけに、少年は少し目を逸らした。

 そして、右拳を握りしめて悔しそうに言った。


「落とされたんだよ。敵の魔法で部隊を分断されて、一人で飛んでいるところを雷でズバッとな」

「それはなんとも不幸な……」

 

 でも、これでこの少年の所属先が分かった。

 デライアンが誇る空中制圧部隊——その名も龍騎隊。

 ハーピィやグリフォンといった、空を制圧する叛徒に立ち向かうために結成され、龍とその背中に乗った兵士が共に闘う集団だ。

 龍の姿がないのは……ううん。この人が生きているだけでも良かったと考えるべきだ。


「ねぇ、ゼク。私もその……お墓参りに行っていいかな?間接的にとはいえ、あなたと少しは関わったのだし。ダメ……かな?」


 あーあ。私も変わってるなぁ。

 今日会ったばかりの人に、会ったことのない龍のお墓参りをお願いするなんて。変な話だ。

 まぁ、悪い気はしないけどね。

 ゼクは少しだけため息をつくと、視線を逸らして言った。


「お前、何を言ってるんだ?」


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